マンスリーコンテスト 2021年10月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2021年10月結果発表

最恐賞
「壺底の星」影絵草子
佳作
「コボシ」蛙坂須美
「ナカソネソーリ!!」饂飩
「酩酊」芳春

「壺底の星」影絵草子

蒲生さんは幼い頃、死にかけたことがある。

蔵の物を虫干しをするためなかの物を手当たり次第に家族で運び出していく。
棚の下から何かを見つけた。
徳利蜂の巣に似ている。
茶色く煤けた古い壺だ。
気づくと、壺を和室に運んでいた。
なぜ、こんな場所に運んだのかわからない。

虫干しが終わり、すべてを運び出して一段落した頃、壺のことを忘れていて、叱られると思ったので取りに行こうと和室に戻ると、母親がいた。
しかも、あの壺に顔を埋め、何やら嬉しそうに笑っていた。

「お母さん、何をしているの?」

そう話しかけた。

「気になるならあんたも覗いてみなさい」

底を覗く。
暗闇の中にいくつものきれいな青い星が浮かぶ。
夜空だ。

静かな暗闇に身を委ねていると、急に苦しくなる。
ふいに後ろから襟首をつかまれ、水面から上半身を引っ張りあげられた。
自分は、敷地にある池に顔を埋めていた。
見ると怖い顔をした母親と父がこちらを見ている。

「何をしているんだ死ぬとこだったぞ!」

そう言われる。

まだ少し苦しい。
だいぶ水を飲んだようだ。
池のイヤな臭いが鼻の奥に残っている。

自分は、壺を覗いていたはずである。
蔵の中や、虫干しされたものを見ても、その中にもうあの古い壺は無かった。
あのまま誰も引っ張りあげてくれなければ自分は死んでいただろう。
夜空の星に見とれていたが、壺の底に見えたものは、おそらく星ではなく別の何かなのだと思う。
ただ、壺を覗いていた時間は恐ろしく幸せだった気がする。
あの和室で見た母親はきっと母親ではなく、自分を誘い出すためのエサだったのだろうと今なら思える。

それ以来、何かを覗くという行為は自分にとって忌むべき行為になった。

総評コメント

今回のお題は「憑く」。「憑くもの」がいて、「憑かれるもの」がいる。怪談として広い意味を持つテーマでありましたので、いつも以上に多数のご応募をいただきました。また、それもレベルの高い作品が多く、おおいに楽しませていただきましたことをまず御礼申し上げます。
最恐賞は得体の知れない何かにとり憑かれ、魅せられ、とりこまれる寸前までいった恐怖譚「壺底の星」影絵草子。短文を繋げて淡々と綴るスタイルで、独特の静けさに満ちた世界観を生み出している点を評価いたしました。佳作は、テーマに直球で応えたリアルな憑き物筋の話「コボシ」蛙坂須美、ママ友同士の会話から始まる構成と意外性のあるるワードが面白い憑依系怪談「ナカソネソーリ!!」饂飩、明日香村の山道を歩いている時の異変から不吉な未来の顛末までを描いた「酩酊」芳春の3作を選出。それぞれにカラーの違う3作ですが、数多くの作品の中でも、最後まで印象に残った作品でした。
10月の回で、怪談マンスリーコンテストは40回を数えました。当初は応募数も少なく、文章力の点で不安定な作品が多かったのですが、3年目に入ってから応募作品の数とレベルが目に見えて上がり、選考に悩む(大変うれしいことです)ことが多くなりました。
この総評欄では、その中で選外だった作品も含めての応募傾向や、受賞へ近づくアドバイスを何かしらお伝えできればと思っておりますが、抜けている月もあり、楽しみにしてくださっている方には大変申し訳ございません。先月の「双子に纏わる怖い話」の総評も今回あわせて掲載させていただきましたので、よろしければ振り返ってご覧になってくださいませ。
さて、今回「憑く」の回の全体印象ですが、何かに憑依される=自我を乗っ取られるといったタイプの怪談がいちばん多かっようです。一時的な憑依現象から、少しずつじわじわと、完全に人格と人生を乗っ取るような根の深いタイプのお話まで様々でしたが、一時的なものは概ね声が変わる、表情や仕草が変わるなど、誰が見てもすぐ違和感を感じる(いつもの彼、彼女ではないとわかる)のに対し、長期から恒久的な憑依の場合は、あからさまな声の変化などはなく、周囲を騙しながら少しずつ周到に乗っ取りを成就させていくような邪悪な恐ろしさがありました。
応募作として、どちらかが優れているということはありません。後者のほうが単純に怖いのは確かですが、読み物として面白い、読んでいて引き込まれる要素があることが何よりも大事です。
以前の総評でも書いたかもしれませんが、1,000字という限られた文字数ですので、冒頭(導入)はできるだけ完結に、一文の長さが長いと頭に状況(舞台)が入りづらいの最初は短めの文章を心掛けるとよいと思います。詳細な説明よりもまずはストーリーを動かす、何かが起きる、読者はその先が気になる、という展開・導線を早めに作っていくことが大事です。文章力がとても高い方、読ませる文に長けている方はこの限りではないのですが、一般に地の文だけでは引っ掛かりがなく、話の内容が流れていってしまう傾向があります。地の文だけでなく、セリフを効果的に挟むほうがフックが生まれ、読むほうもそこでまた集中力が高まります。
例えば、「Aさんは、今思えばあの時の母はいつもの穏やかな表情とは違う剣呑な何かが眉間のあたりに漂っていて怖かったと呟いた。」と地の文で書いてもいいのですが、
「今になって思うんですけど、あの時の母さんいつもの母さんじゃなかった。眉間のところが暗く窪んで、なんか怖かった…」Aさんは遠く見つめながら小声で呟いた。
とセリフで伝えたほうが感情が出るので、読者を巻き込みやすいのです。そうした構成に気を遣うと、より読者を自分のフィールドに引き込んでいくことができると思います。
表現は無限です。求めるのは実話怪談ですから、聞いたエピソード、素材をまるきり変えることは趣旨に反しますが、どう伝えて見せるかはあなた次第です。
来月も皆さまそれぞれの、個性的な調理を楽しみにしております!

〈その他最終候補作品〉※最恐賞、佳作以外
「母の残したテープ」鬼志仁
「怪を纏う」あんのくるみ
「空腹峠」高倉樹
「ナツカレ」青葉入鹿
「頭頂の傷痕」安田鏡児
「ムシが憑く」丸太町 小川
「強請り鴉」雨森れに
「ケモノ井戸」夕暮怪雨
「お吟さん」坂本光陽
「イタズラの代償」 月の砂漠
「犬神憑き月の砂漠」
「彼女がおかしかったのは、取り憑かれたせい?」いまい まり
「元カノ」雨水秀水
「切ってください」蜂賀 三月
「住み心地がいい」春日線香
「おじさん」山葉大士
「厭な女」三柴ゆよし
「ビルが建っている」蛙坂須美
「コボシ」蛙坂須美
「牛封じ」墓場少年
「内内外側」成瀬川鳴神

さて、次回11月の応募は本日よりスタート!今回のお題はご当地「愛知県」。
12月中旬より、「ご当地怪談ベストフェア」の開催が決まりました!!!
これまでのご当地怪談文庫の中からベスト10をセレクトした、購入者2大特典付きのフェアになります。
明日お昼に、プレゼントが当たるリツイートキャンペーンも発表になりますので、公式Twitterをチェックしてみてください。
竹書房怪談文庫では北は北海道から、南は沖縄まで様々地域、都市のご当地実話怪談を出してまいりましたが、意外にも大都市名古屋のある愛知県の怖い話が出ておりません。
前回マンスリーコンテストで都道府県テーマで募集した時も今一つ集まらなかったのですが、今回ピンポイントで再募集したいと思います!
愛知県各所の名所、史跡、観光地から、市井の住宅地の怪事件まで大募集。
優秀作品が多く集まれば、即文庫化もあり。

皆様のご参加、心よりお待ちしております!

現在募集中のコンテスト

【第50回・募集概要】
お題:「通勤通学」に纏わる怖い話(怪奇・心霊限定)

原稿 1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切 2022年08月25日24時
結果発表 2022年08月31日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫化チャンス
佳作 3名
お好きな怪談文庫新刊3冊
応募方法 下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。 応募フォーム
メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト8月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。 kowabana@takeshobo.co.jp