マンスリーコンテスト 2022年1月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2022年1月結果発表

最恐賞
「きつね餅」soo
佳作
「S宮の御朱印」山羊沢優弥
「降る髪」雨森れに
「仏壇に巣くうモノ」キアヌ·リョージ

最恐賞「きつね餅」soo

Aさんの生家は十何代続く旧家で、拾ってきたある神様を一族の守り神としてお祀りしている。そのいきさつはこうだ。その昔、家に不幸が続いた時期があった。特に器量よしで評判だった本家の娘がならず者に殺された事件は一族に暗い影を落とし、当主はショックですっかり病みついてしまった。そんなある日、一族で一番の年寄りだった婆様が夢で「自分を祀れば末代まで守ってやる」と神様から直々に言われたそうだ。翌日、夢のお告げにしたがって男たちが山のある場所を掘るとご神体が出てきたので、それを祀ったのが始まりだという。おそらくご神体を持った旅人が行き倒れてしまったのではないか、というのがAさんの解釈だった。とにかく、そういったいきさつで神様はそれからAさんの家で代々大切に祀られてきた。ご神体の大部分は山中の祠に安置し、残りは神棚に祀った。三度三度のお供えは神棚に、節目のときは祠に、とAさんは祖父に教わった。
そんなAさんは少年時代に一度だけ、その神様に叱られたことがあるそうだ。毎年、元旦には朝一で餅をつき、祠にお供えに行くのが決まりだったが、その年は例年にない大雪で祠に続く石段が雪ですっかり埋まっていた。雪をかいて行くのが面倒だったため、Aさんは石段のふもとに餅を入れた鉢を置くと「ここに置きます、すみません」と祠のほうに頭を下げて帰った。すると、その夜Aさんの夢に大きな白狐が現れた。白狐の周りには子狐が何匹もおり、にぎやかに駆け回っていたそうだ。Aさんが呆気にとられていると白狐はこんなことを言ってきた。
「今年は子どもを沢山産んだ。腹が減っているのに、この通りで動けない。どうして祠まで餅を届けてくれなかったのだ」
翌朝、Aさんは夢の話を曾祖母に話した。すると曾祖母の顔はみるみる真っ青になった。曾祖母はすぐに餅米を蒸し、男手を集めて山ほどの餅をつかせた。そして一族総出で石段の雪かきを行い、全ての餅を祠にお供えした。あまりに餅が多すぎて、祠の扉が見えなくなるほどだった。勿論、帰宅後にAさんがこっぴどく叱られたのは言うまでもない。ちなみにその夜、白狐はもう一度Aさんの夢に出てきた。そして「餅は確かに受け取った」とAさんに告げて消えた。翌朝祠を見に行くと、餅は一つもなくなっていた。
Aさんは今では還暦を過ぎた老人だ。親戚の子どもたちにこの話をしつつ「お供え物は必ず祠まで」と教える立場になっている。

総評コメント

総評お待たせしました。1月のお題は「神仏」に纏わる怖い話。「神」対「仏」、「神社」対「寺」ではありませんが、数としては圧倒的に神・神社テーマの作品が多い結果となりました。霊の話であれば、当然ながら亡くなられた方の居場所である菩提寺のお墓や仏壇など寺の領域になってきますが、今回は人霊の話より神霊、恐れより畏れの話が多い傾向となりました。必然的に恐怖譚より不思議な話、異談が多かったとも言えます。
最恐賞は、旧家が独自に祀ってきた神様の話。話の前半、ご神体が何かは明らかにされていませんが、後半に夢のお告げで白狐が出てくる所から、白狐の骨だったではないかという仮説が立ちます。或いは、神は別の存在で白狐は御眷属であるという見方もできるのですが。民話のような味わいの素朴な作品ですが、体験者の少年の心情など素直な描写が良かったと思います。
佳作「S宮の御朱印」は御朱印めぐりに向かう途中山中で迷い、不思議な青年に道案内をしてもらう話。山で出会った青年の正体はいったい何なのか、そこにどんな意図があったのか、社務所の老婆は何を知っていたのか、そもそも老婆は実在していたのか……。謎だらけの話ですが暗い山道そのものの翳りと不穏さが終始お話に纏わりつき、雰囲気のある怪談に仕上がっていました。
2作目「降る髪」もある一家が独自に自宅の地下で祀っている神様(ミグシ様)のお話で、大変興味深い内容。必ず足袋をはくこと、けして顔をあげてはいけないといった決まりや禁忌が定められており、怪談好きにはたまらないでしょう。ミグシ様と接近するシーンの緊迫感も良く出ていました。
3作目「仏壇に巣くうモノ」は唯一、神様系でない仏壇の怖い話。仏壇の位牌の上で蛍のように揺れ動く光の玉。その光に吸い寄せられて手を伸ばすと、仏壇から黒い手が伸びてきて引きずり込まれるという怪現象。まるでチョウチンアンコウのように仏壇が人をおびき寄せて喰らう(どこかに連れて行かれるの)話は荒唐無稽に思るかもしれませんが読むと生々しく、妙なリアリティがありました。自分の血縁の位牌が納められた仏壇に、邪悪なものが潜んでいるとしたら恐ろしいですし、先祖の霊がそうしているとすればそれもまた恐ろしい。答えはありませんが、解釈の楽しみも含め良かったと思います。
全体として気になったのは、神社とお寺が混ざってしまっているケース。お寺から神主が出てきたり、鳥居をくぐると卒塔婆が倒れていたり、線香の匂いが漂ってきたり、宮司がお経と唱えていたり、或いは住職が祝詞をあげていたり、単純な間違いなのか知識不足のまま創作してしまったのか、いずれせよ実話怪談としての信憑性を疑わざるを得ない作品がちらほら目につきました。
受賞作もそうですが、実話ですから謎は謎のままでも構わないのです。むしろすべて辻褄があい、解明されることのほうが珍しいでしょう。わからないからこそ怖いということもあります。作者の憶測をあたかも事実のごとく断定調に書いてしまうのも、時に興ざめとなることが少なくありません。「わからない」という怪異現象をどれだけ恐ろしく、或いは純粋な不思議さをもって伝えるかが実話怪談の肝です。来月も行間で味わう怪談をお待ちしております。
2月のお題は「山」。優秀作品はアンソロジーへ収録のチャンスあり。ふるってご応募ください!

★一次選考通過25作※投稿日時最新順
「木札」あんのくるみ
「神社に置いた藁人形」鳥谷綾斗
「きつね餅」soo
「失礼」高倉樹
「ばっちゃ」おがぴー
「ご先祖様」エリカの母
「仏壇に巣くうモノ」キアヌ·リョージ
「降る髪」雨森れに
「S宮の御朱印」山羊沢優弥
「極彩色の霧」夕暮怪雨
「三社参りの帰り道」鞠目
「夢中斬首之事」蛙坂須美
「大仏さんマスク」小糸(天神山)
「殺しすぎる」月の砂漠
「“違う”兄」いまい まり
「覚えているのもだめ」中野前後
「そういうものだよ」春日線香
「顔」安田鏡児
「御岳教の祖父」小田虹里
「神棚隠し」雪鳴月彦
「祈り」怪談夢屋
「僕だけの神様」墓場少年
「しろたえ」古森真朝
「勝ち馬に乗る」影絵草子
「神棚だらけの喫茶店」鞍馬アリス

★二次選考10作(最終選考に残った作品)
「きつね餅」soo
「仏壇に巣くうモノ」キアヌ·リョージ
「降る髪」雨森れに
「S宮の御朱印」山羊沢優弥
「極彩色の霧」夕暮怪雨
「覚えているのもだめ」中野前後
「顔」安田鏡児
「祈り」怪談夢屋
「僕だけの神様」墓場少年
「しろたえ」古森真朝

次回、2022年2月のお題は「山」。山で起きた恐ろしい出来事、不思議なこと、山の禁忌、掟に纏わる怪奇譚、山神様や山岳信仰の異談、山に棲まうモノの実話怪談お待ちしております。
ふるってご応募くださいませ!

現在募集中のコンテスト

【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話

締切 2024年11月30日24時
結果発表 2024年12月16日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

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