マンスリーコンテスト 2022年8月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2022年8月結果発表

最恐賞
「思い出の彼女」墓場少年
佳作
「穴」更紗アンナ
「鉄腕の歌声」雨森れに
「深夜の訪問者」筆者

最恐賞「思い出の彼女」墓場少年

М君が高校時代に体験した、夏の終わりの奇妙な怪異。
部活を終えて帰宅途中、М君は通学路の脇でうずくまっている女子生徒を見つけた。
後ろ姿だけで、М君にはそれが自分の彼女であると分かった。
「あれ、どうしたの?」
駆け寄って声を掛けると、虚ろな瞳で彼女が呟いた。
「急に……眩暈がして」
顔面蒼白の彼女を見て、М君は焦った。
「顔色悪いよ! 救急車呼ぶ!?」
「大丈夫……多分、軽い熱中症」
とりあえず、М君は彼女を家まで送っていくことにした。
「えっと、ここからどう行けばいいんだっけ?」
「ふふ、毎日ウチの前を通ってるくせに忘れたの? そこ、右」
彼女の案内で無事に家まで辿り着くと、二階にある部屋まで付き添った。
すぐにエアコンのスイッチを入れ、鞄から水を取り出して飲ませた。
「手、繋いでよ」
そう言ってベッドに横たわった彼女の手を、照れながらもМ君は握った。
やがて室内が涼しくなると、彼女は浅い寝息を立て始めた。
様子を伺っていたМ君は安心し、いつのまにかウトウトとしていた。
どのくらいそうしていたのか、猛烈な暑さでハッと目を覚ました。
確かにつけたはずのエアコンが停止していた。
窓からは強烈な西日が差し込み、全身が汗でびっしょりと濡れている。
そして目の前には、誰も居ないベッドがあった。
周囲を見渡し、М君は唖然とした。
べろりと剥がれた壁紙に、千切れたカーテン。
ベッドシーツは醤油で煮しめたようにひどく汚れていた。
異常事態であったが、何よりも心配なのは彼女の所在だ。
部屋を飛び出したМ君は、彼女の名を叫ぼうとした。
しかし、声を発することが出来なかった。
なぜなら――彼女の名前を思い出せないからだ。
ここで漸く、М君は我に返った。
(そもそも、僕には彼女なんて居ない!)
その瞬間、背後で扉の開く音がした。
信じられないほど冷たい空気と共に、か細い声が漏れ出てきた。
「行かないで……」
先程まで一緒に居た、彼女の声だった。
知っているけど、知らない声。
恐怖よりも、何だかとても悲しい気持ちになった。
この場所に留まれない自分が、薄情な人間に思えた。
М君は心の中で何度も「ごめん」と呟きながら、ゆっくりと階段を下りて家を出た。
振り返ると、そこは通学途中に毎日見ている空き家だった。
「10年以上前の話ですが、今でも夏になると思い出します」
そう言って、М君はさみしげな表情を浮かべた。

総評コメント

後日掲載

★最終選考に残った作品 ※順不同

「満員最中の空席にて」高倉樹
「A先生」キアヌ・リョージ
「ピンポンダッシュ」都平陽
「シロの恩返し」月の砂漠
「思い出の彼女」墓場少年
「寄り道」神代八咫
「会社に行け、行け」岡嶋克彦
「深夜の訪問者」筆者
「鉄腕の歌声」雨森れに
「穴」更紗アンナ

★二次通過作品 ※順不同

「緑のおばちゃん」あんのくるみ
「満員最中の空席にて」高倉樹
「A先生」キアヌ・リョージ
「コスモスの風車」ヒサクニ
「ピンポンダッシュ」都平陽
「乗り過ごしたバス」鬼志仁
「バスのおじさん」宿屋ヒルベルト
「暗闇に囚われるのは」おがぴー
「シロの恩返し」月の砂漠
「思い出の彼女」墓場少年
「その場所は」天堂朱雀
「寄り道」神代八咫
「会社に行け、行け」岡嶋克彦
「深夜の訪問者」筆者
「鉄腕の歌声」雨森れに
「通勤しなかった話」es
「穴」更紗アンナ

★一次通過作品 ※順不同

「緑のおばちゃん」あんのくるみ
「満員最中の空席にて」高倉樹
「何度も落ちる」青葉入鹿
「A先生」キアヌ・リョージ
「コスモスの風車」ヒサクニ
「金魚池」天神山
「痴漢実習」おがぴー
「ピンポンダッシュ」都平陽
「旧友」都平陽
「乗り過ごしたバス」鬼志仁
「バスのおじさん」宿屋ヒルベルト
「謎の乱入者」夕暮怪雨
「暗闇に囚われるのは」おがぴー
「お迎えに来ました」夕暮怪雨
「あの人」蒼ノ下雷太郎
「シロの恩返し」月の砂漠
「思い出の彼女」墓場少年
「その場所は」天堂朱雀
「寄り道」神代八咫
「山ノ神より」雨森れに
「会社に行け、行け」岡嶋克彦
「深夜の訪問者」筆者
「鉄腕の歌声」雨森れに
「通勤しなかった話」es
「穴」更紗アンナ

次回9月は「道具」に纏わる怖い話。
皆様の力作、お待ちしております。

現在募集中のコンテスト

【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話

締切 2024年11月30日24時
結果発表 2024年12月16日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

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