マンスリーコンテスト 2022年9月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2022年9月結果発表

最恐賞
「ごぞぱしかり棒」宿屋ヒルベルト
佳作
「フローター」ふうらい牡丹
「万華鏡の景色」夕暮怪雨
「三日月と隕石」雨森れに
「あの日の声」ホームタウン

最恐賞「ごぞぱしかり棒」宿屋ヒルベルト

Mさんが某地方の営業所に赴任していた時の話。
寮の近くのコンビニに、夜遅く行くと大抵レジを打っているギャルっぽい女の子がいて、何度か通ううちにちょっとした会話を交わすようになった。
「そうだ」Mさんはある時、前から気になっていたことを訊ねた。
レジ裏の壁の一角に、変なものが吊ってあった。白い組紐のようなものでぐるぐるに巻かれた、長さ30センチほどの棒。先端に行くにしたがって広がって平べったくなっており、引き延されたしゃもじみたいな形だ。
「あれ、なんですか?」
「……そっか、お客さん県外から来た人だから知らないか」
戸惑ったような間ののち、ギャルは得心した様子で頷いた。
「これね、ぱしかり棒」
棒を手に取り、ギャルは指揮でもするように振ってみせる。
「時々、貸してくれって人がいるから置いてるんだ。これでぱしかるんだよ」
?を……ぱしかる?」
方言なのか古い言葉なのか、「何」を「どうする」のか類推もできない。
「このあたりお年寄りが多いからさ。迷信深い人もいるんだよね」
「へーえ……」
地元独特の、厄払いか何かに使う道具で、この地域では「これ何?」と改めて訊いたりしないようなありふれたものなのだろう。そんなギャルの口ぶりに、質問を重ねるのも気れした。味の悪さを感じたが、今度調べてみようと思っているうちに忘れてしまった。
それから二週間ほど経った夜のこと。
その日もギャルと他愛もない雑談をしながら会計を待っていると、グレーの作業着姿の太った男が店に飛び込んできた。
「ぱしかり棒出せ!ぱしかり棒!」
レジカウンターを叩きながら男は怒鳴る。なんだこいつ? Mさんは驚いたが、ギャルは慣れた様子で「ぱしかり棒」を手渡した。
男はひったくるように棒を掴み――それで自分の頭を勢いよく叩き始めた。
「せっかくですが!せっかくですが!せっかくですが!」叫びながら、一分ほども叩き続けていただろうか。鬼のようだった男の形相がスッ……と和らいだ。
「助かったわ」
男はポケットからくしゃくしゃの万札を出して放り、よろよろ出て行ってしまった。
Mさんは、呆然と見送るしかできなかった。
「……今の、をぱしかってたんですか?」
訊ねると、ギャルはカウンターに放られたぱしかり棒を手に取って浮かない顔で言った。
「うん。でもねえ、あの人たぶんもう無理だよ」
棒に巻かれた組紐が、握った男の手の形に真っ黒に変色していたという。

総評コメント

9月のお題は「道具」。道具とは何か。物をつくったり、あるいはなにかを行うために用いる器具の総称とありますが、どこまでを道具と捉えるかは悩むところでもあります。大工道具など、道具という言葉が直接ついている場合はもちろんのこと、文具なども目的の明確な道具のように思います。今回、はたしてこれは道具の範疇に入れていいのだろうかと悩むものが多かったです。包丁などの調理器具は道具ですが、茶碗はどうか。洗濯板は洗濯するための道具ですが、洗濯機はどうか。玩具はどうか。寝具はどうか。イメージだけで言えば大きな家電は道具っぽくない気がしますし、玩具も人形となると道具なのかな、とモヤモヤしてきます。ただ、家財道具という言葉もあり、その定義は「家にある家具や器具、衣類のこと。日常生活における動産のことを言うのでタンスやテレビ、布団などの大きな物から宝石や本などの小さな物も家財道具に含まれる」とあり、その意味ではかなりのものが道具と言えそうです。しかしながら、一般的に誰もがイメージする道具としては、あまり大きくないもの、そして、どちらかというとアナログなものではないでしょうか。

最恐賞は、宿屋ヒルベルト「ごぞぱしかり棒」。地方のコンビニに常備されている謎の道具に纏わる話で、謎は謎のままでありますが怪談らしい奇妙な味わいに惹かれました。佳作1作目は「フローター」ふうらい牡丹。釣り道具に纏わる話ですが、引き込まれる文章と表現力が秀逸でした。2作目「万華鏡の景色」夕暮怪雨。万華鏡を道具に入れるかで迷ったのですが内容が素晴らしく、深い余韻に包まれます。3作目「三日月と隕石」雨森れには、爪切りの話。こちらも不思議な話でお題への合致度、人物描写などが大変良かったと思います。4作目「あの日の声」ホームタウンは聴診器に纏わる話。聴診器から聞こえてくる歌と、意外な結末と構成もよく、読み応えのある怪談でした。今月は佳作4作となり目ました。

今回の全体的な印象としては、最後の一行でどんでん返し的な派手なオチのついた作品が多かったように思います。当然のことながら怪異に至る前振りが長くなるわけですが、それが冗長に感じられる場合が目立ちました。その結果、創作(小説)のような雰囲気になってしまい、実話らしさが薄れてしまっている気がいたしました。また結論ありきの推測など、不自然さが拭えないものも多いです。実話怪談とホラーショートは似て非なるものですから、実話怪談であることが読者に伝わるようにするにはどうすればいいか今一度考えてみてください。どんな経緯でその人物から話を聞いたのか、筆者から見たその人物の印象、その人物から話を聞いている筆者の姿、怪異を体験した本人の思い、話を聞いた筆者の感想、それらは必ずしも本文中に必要なわけではありません。ですが、そこはことなく作品の背後に浮かんでくることは必要だと思います。例えば、今回の最恐賞の作品であれば、Mさんという体験者から話を聞いたんだなということが冒頭でわかり、最後の「~という」で、それを見た時のMさんの気持ち、話を聞いた筆者の感情など何となく推測できるものがあるのではないかと思います。

次回の募集から、地の文における一人称(私、僕、俺など)は応募者と一致する場合のみ使用可とさせていただきます。取材した話を一人称で仕立てる表現ももちろんありますが、創作と実話をより明確にするために今後の怪談マンスリーコンテストではこのルールでご投稿をお願いできればと思います。第三者の体験談(第三者から聞いた話)は、三人称での表現を原則といたしますので、お間違いなきようご投稿くださいませ。また、場所に関連する話は個人のプライバシーに抵触しない範囲で、地域、地方などを明記していただけると幸いです。皆さまの力作、お待ちしております!

★最終選考に残った作品 ※順不同

「フローター」ふうらい牡丹
「覗いたもの」飛幡一聖
「勝つ為の道具」宮代あきら
「万華鏡の景色」夕暮怪雨
「あの日の声」ホームタウン
「三日月と隕石」雨森れに
「ごぞぱしかり棒」宿屋ヒルベルト
「想い出のボールペン」宿屋ヒルベルト

★二次選考通過作品 ※順不同

「漬物石」夕暮怪雨
「フローター」ふうらい牡丹
「覗いたもの」飛幡一聖
「勝つ為の道具」宮代あきら
「じいちゃんのハサミ」月の砂漠
「万華鏡の景色」夕暮怪雨
「あの日の声」ホームタウン
「三日月と隕石」雨森れに
「ごぞぱしかり棒」宿屋ヒルベルト
「想い出のボールペン」宿屋ヒルベルト
「梁の上」おまつ
「天狗の遠眼鏡」影絵草子

★一次選考通過作品 ※順不同

「漬物石」夕暮怪雨
「カメラが写すもの」あんのくるみ
「フローター」ふうらい牡丹
「覗いたもの」飛幡一聖
「勝つ為の道具」宮代あきら
「けもの傘」雨森れに
「骨の釣り針」大佛太郎
「祖母の音色」月の砂漠
「じいちゃんのハサミ」月の砂漠
「万華鏡の景色」夕暮怪雨
「あの日の声」ホームタウン
「指の念」筆者
「真っ赤な公衆電話」野呂瀬悠
「三日月と隕石」雨森れに
「ごぞぱしかり棒」宿屋ヒルベルト
「想い出のボールペン」宿屋ヒルベルト
「梁の上」おまつ
「医家の残影」影絵草子
「天狗の遠眼鏡」影絵草子

次回10月は「音楽」に纏わる怖い話。歌、曲、楽器、楽譜、再生プレーヤー、コンサートなどなど、皆様の力作、お待ちしております。

現在募集中のコンテスト

【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話

締切 2024年11月30日24時
結果発表 2024年12月16日
最恐賞 1名
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優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp