竹書房怪談文庫TOPマンスリーコンテスト2022年10月結果発表
マンスリーコンテスト 2022年10月結果発表
怪談マンスリーコンテスト
ー 怪談最恐戦投稿部門 ー
2022年10月結果発表
- 最恐賞
- 「魅了」雨森れに
- 佳作
- 「コンサト の おあんない」宿屋ヒルベルト
「炭坑節」柩葉月
「妻の鼻歌」天神山
最恐賞「魅了」雨森れに
22年前。夏美さんは鹿児島に傷心旅行にきていた。
暇潰しに入った土産物屋。
ここで目に止まった白い巻貝を、なんとなく購入した。
すぐにホテルに戻るのも気が進まず、海へ向かって散歩する。
浜辺に近付いてくると潮の香りが強くなる。
どよんとした鈍い紺色の海。波の音が響いた。
曇り空の下ではあったが、波打ち際に一抱えほどの石があるのが見えた。
目的がない散歩の終着点を、石が見える位置の堤防までとした。
そこに腰掛け、巻貝を取り出して眺めた。
手のひらに収まる大きさの貝。
幼少期に、中から海の音が聞こえると教わったことがある。そう思い、耳に当てた。
しおしおとした空間の音。
そのうち、それが波の音に感じられるようになってくる。
ここまでは幼少期の記憶通りだったが。
ハミングのようなものが混ざり始めた。
え?
耳を疑い、貝をはずす。
周囲に歌ってる人などいない。
もう一度耳に当てる。
やはりハミングが聞こえる。
視線を泳がすと、呼ばれたかのように正面の石に目が止まった。
石には無数の黒い綿埃がまとわりついていた。
綿埃から虫のような手がのびて、表面を撫で回している。
その様子から目が離せなくなった。
綿埃が飛び跳ねると、歌声も高い音を出す。
撫で回している時は、落ち着いた旋律になる。
石は食べられているようで、徐々に小さくなっていった。
『きもちいいねぇ。きもちいいねぇ』
小さく、声が聞こえた。
あの埃の、声?
石が無くなると同時に埃と声は消えた。
夏美さんが近づくと、そこには白っぽい小石が散らばり、ほのかに不思議な香りがしていた。
彼女は未だにその時の巻貝と小石を大切にしている。
貝からの潮騒の音楽を聴き、竜涎香を嗅ぐ。
すると、とても気持ちがいいのだそうだ。
総評コメント
10月のお題は「音楽」。路上ライブからスタジオや学校の音楽室の怪、曰くつきの楽器やプレーヤーなど、音に纏わる多様な恐怖譚が集まりました。最近のお題の中ではまさに「アタリ!」という回で全体的にレベルが高く、新鮮味のある内容ばかりで大変楽しませていただきました。「音楽」に纏わる話で1冊、本になるのではないかと思います。今回から、「地の文における一人称(私、僕、俺など)は応募者と一致する場合のみ使用可」という新ルールが導入されています。実話怪談の作法として共通のルールであるという意味ではなく、あくまでこの怪談マンスリーコンテストのルールと捉えていただければと思います。このルールに翻弄された方も多いようで、三人称で書き始めたものが、途中から一人称になってしまっている作品が見受けられました。最初は一人称で書いたものを、三人称の作品に仕立て直したと思われる作品もあり、やや不自然さが残っているかなという印象です。
一人称で書かれている作品は基本、私、僕、俺=ご本人として拝読しておりますが、一人の方が複数の作品をご投稿されている場合、ある作品では一人称が若い女性であったのが、別の作品では中年男性になっているというのはルールに反している(創作の疑いがある)と判断しまして、選考の対象外としております。皆さま、この点どうぞお気をつけください。また、一人称の死にオチ、行方不明オチなどはもちろん論外です。
最恐賞は、「魅了」雨森れに。海辺で見た(聞いた)不思議な怪現象を綴った作品ですが、非常にレアなネタで興味深い内容でした。「きもちいいねぇ」という言葉が効いています。最後の竜涎香が若干読者の想像力に委ねすぎかなと感じましたが、よい作品であったと思います。
佳作1作目は「コンサト の おあんない」宿屋ヒルベルト。こちらはかなりトリッキーなお話で、得体の知れない怖さが際立つ作品。街中に貼られたおかしな張り紙から始まる怪談は一種童話的な雰囲気もありますが、謎は謎のままであり実話を損なわない怪談となっています。佳作2作目は「炭坑節」柩葉月。こちらは土地の因縁に絡む怪異ですが、素直な味わいで読後感のよい実話怪談でした。死者の中にも人間味を感じる良作です。最後3作目は「妻の鼻歌」天神山。怖いというよりは奇怪な話ですが、テンポよく読ませる文、展開に引き込まれました。シンプルながら真実味も伝わってくるところも良かったです。断固嫌がる、など文として若干気になるところもあったので、修正していくとなお良くなるでしょう。一次選考から最終選考までの選考過程は以下の通り。
★最終選考に残った作品 ※順不同
「寄り添う曲」あんのくるみ
「クレーム」ふうらい牡丹
「有線から聞こえる」高倉樹
「予知音」月の砂漠
「炭坑節」柩葉月
「コンサト の おあんない」宿屋ヒルベルト
「クマのぬいぐるみ」夕暮怪雨
「魅了」雨森れに
「妻の鼻歌」天神山
★二次選考通過作品 ※順不同
「寄り添う曲」あんのくるみ
「クレーム」ふうらい牡丹
「お昼の放送」乱夢
「耳コピ」おがぴー
「絶対に触れない」丸太町小川
「有線から聞こえる」高倉樹
「混ぜるな危険」月の砂漠
「予知音」月の砂漠
「炭坑節」柩葉月
「コンサト の おあんない」宿屋ヒルベルト
「クマのぬいぐるみ」夕暮怪雨
「おんがく」山賀忠行
「魅了」雨森れに
「思い出の曲」雪鳴月彦
「かこみ」影絵草子
「妻の鼻歌」天神山
★一次選考通過作品 ※順不同
「寄り添う曲」あんのくるみ
「穴」キアヌ・リョージ
「クレーム」ふうらい牡丹
「家路」ふうらい牡丹
「お昼の放送」乱夢
「耳コピ」おがぴー
「絶対に触れない」丸太町小川
「someday」夕暮怪雨
「保留音」葉山暁生
「有線から聞こえる」高倉樹
「混ぜるな危険」月の砂漠
「予知音」月の砂漠
「向こう側」天童朱雀
「炭坑節」柩葉月
「コンサト の おあんない」宿屋ヒルベルト
「ギターアンプ」武田メイ
「カセットテープ」若林明良
「クマのぬいぐるみ」夕暮怪雨
「おんがく」山賀忠行
「ピアノ弾かせて」山賀忠行
「魅了」雨森れに
「二度と聞きたくない歌」渡戸章五
「思い出の曲」雪鳴月彦
「かこみ」影絵草子
「ピアノの調律」影絵草子
「妻の鼻歌」天神山
次回11月は「嘘」に纏わる怖い話。嘘から出た実、言霊、色々と広がりがあると思います。皆様の力作、お待ちしております!
現在募集中のコンテスト
【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話
締切 | 2024年11月30日24時 | |
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結果発表 | 2024年12月16日 | |
最恐賞 | 1名 Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス |
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優秀賞 | 3名 竹書房怪談文庫新刊3冊セット |
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応募方法 | 下記「応募フォーム」にて受け付けます。 フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム | お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp |