竹書房怪談文庫TOPマンスリーコンテスト2023年5月「投稿・瞬殺怪談」最終結果発表
マンスリーコンテスト 2023年5月「投稿・瞬殺怪談」最終結果発表
怪談マンスリーコンテスト
ー 特別企画「投稿・瞬殺怪談」ー
5月公募(40字×30行以内)結果発表
- 最恐賞
- 平山賞 該当なし
- 黒木賞「鳥葬」多故くらら
★Amazonギフト3,000円+文庫掲載+献本1冊
- 優秀作
- 「葬送の面」宿屋ヒルベルト
「冷蔵庫の歌」宿屋ヒルベルト
「ぱん」春日線香
「もう少し詳しく」天神山
「ホラ話」あんのくるみ
「オンラインカウンセリング」ヒサクニ
「ズリズリ」影野ゾウ - ★文庫掲載+献本1冊
黒木賞「鳥葬」多故くらら
三十代のMさんは臨海地区のタワーマンションを買った。海に臨む眺めは素晴らしく日々の疲れが癒された。しかし、思わぬ敵が現れた。ベランダに早朝から何羽も鳩が侵入し白黒の湿った糞を撒き散らして行くのだ。仕事に追われ放置していると、ひと月もせずにベランダは糞の貝塚のようになった。鳩の習性について調べると、執着心が強い鳥で自分の糞や羽の一枚でも落ちていれば安心して住み着き、更に卵を産んだ場合は、鳥獣保護法により勝手に処分も出来ず、業者に駆除を頼めば数万円も掛かるらしい。Mさんは泣く泣くベランダの掃除を日課にした。ある休日、鳩の気配に飛び起きたMさんは糞の上に白い卵を二つ見つけた。恐れていた事態が始まったのだ。丁度その日、大学時代の恩師の退官パーティがあり、お義理で出席したMさんに、数年ぶりに再会した同期のTが声をかけてきた。鳩害に悩んでいる事を話すと、「お前には借りがあるから」とある方法を教えてくれた。それはTが大学を休学し南米のP国でバックパッカーをしていた頃、現地の呪術師から教わった鳥獣除けの口笛だった。どこか懐かしい鳥の囀りの様なメロディだ。 「最後に自分が一口吸った後の煙草の葉を散らせよ」そう言われたMさんは周りからの二次会の誘いも断り、帰宅すると早速やってみた。口笛を吹き、吸った煙草を揉んでベランダに撒く。——翌朝、ベランダに大きな鳥の羽ばたきと凄まじい動物の鳴き声が響いた。
どこから来たのか、ベランダで灰色のドブ鼠がカラスに突き喰われていた。血の匂いに呼ばれたのか、他のカラスも飛んできて、争う様に鳩の卵を咥えて飛び去った。最初のカラスも鼠を嘴に挟んで飛び立つと、後には何も残らず、自然の摂理で厄介な卵が消えた。
Mさんは口笛と煙草を続け、以来、鳩は全く寄り付かず喜んでいたが、異変が起きた。
早朝のベランダの床で一羽のカラスが絶命していた。カラスの亡骸の処分に困り、管理人を呼ぶと嫌々持ち去ってくれたが、翌日、今度はトンビが死んでいた。管理人は『野鳥に毒餌でも撒いているのか?』と疑いの目でMさんを睨みつけ「階下の住人から騒音の苦情も来ている」と告げると骸をゴミ袋に入れて去った。口笛の事だろうと階下に謝罪に行くと、「口笛?ただ、ベランダが揺れるほど暴れないでくれ」と沈んだ顔の中年男に言われ、奥のベランダに案内された。階上の我が家のベランダに何か重い生き物がドスッ、ドスッと着地する様な音がする。驚いて帰ると、崩れた肉饅に似た大きな鳥の糞が、ベランダに落ちていた。〈こんな糞をする鳥が近所にいるのか?〉Tに相談しようと先日の会で配られた名簿を探すと、挟まっていた別紙にMさんは驚愕した。『昨年から消息を絶ったT君の情報提供を皆様お願いします』——今も一切、ベランダに鳩は来ない。たまに蝉が迷い込むと、羽だけがいつの間にか窓ガラスに綺麗に貼り付けられているそうだ。
平山夢明先生総評
アクセルはベタ踏みらしいけどギアが入っていないものが多かった。怪談を読む楽しさとはこれだ!というものを短くまとめてくだされ。
黒木あるじ先生総評
いずれの投稿作も楽しく、ときに背筋を寒くさせながら拝読しました。今回は全体的に、さりげない一文で読み手を幻惑させてやろうという〈たくらみ〉のある作品が多かったように思います。とりわけ、土俗と禁忌とせつなさが入り混じった「葬送の面」、こちらの予想を軽やかに裏切る展開の「冷蔵庫の歌」、異能があざやかに語られていく「ぱん」、まさに瞬殺、短いながらも斬れ味するどい「もう少し詳しく」、ラスト一文で恐怖の底を抜く「ホラ話」などが印象に残りました。
そのなかで、もっとも鮮烈だったのは「鳥葬」でしょうか。ぎしぎしに詰めこまれた文章の密度に禍々しさを感じ、綴られる内容の濃度に目眩をおぼえました。個人的には数行で完結する、さながら読み手の首を刎ねるような怪談を好ましく思っているのですが、そんな嗜好をやすやすと捩じふせる迫力に気圧されてしまった次第です。
編集部より
「瞬殺怪談」スピンオフ企画の最終結果発表をお待ちの皆さま、大変お待たせいたしました。5月公募(40字×30行以内)におきましては、たいへん多くの方にご応募いただき、何れも良作ばかりで、一次選考から悩みに悩みぬいた次第です。
最恐賞と優秀作に選出されました上記8作につきましては、2023年7月31日発売の『投稿 瞬殺怪談』に収録させていただきます。たくさんのご応募、誠にありがとうございました。
現在募集中のコンテスト
【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話
締切 | 2024年11月30日24時 | |
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結果発表 | 2024年12月15日 | |
最恐賞 | 1名 Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス |
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優秀賞 | 3名 竹書房怪談文庫新刊3冊セット |
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応募方法 | 下記「応募フォーム」にて受け付けます。 フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム | お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp |