竹書房怪談文庫TOPマンスリーコンテスト2023年9月結果発表
マンスリーコンテスト 2023年9月結果発表
怪談マンスリーコンテスト
ー 怪談最恐戦投稿部門 ー
2023年9月結果発表
- 最恐賞
- 「河童は友達」墓場少年
「娘の腕」中村朔
- 佳作
- 「肉じゃがと心残り」おがぴー
「縁切り神社」月の砂漠
「じんこく」井上回転
最恐賞「河童は友達」墓場少年
自然豊かな田舎育ちのKさんが、小学生の頃に体験した話。
学校からの帰り道、脇を流れる川で何かが跳ねるような音を聞いた。
何だろうと様子を窺うと、不思議な生物が岩場に座っていた。
体長はKさんと同じくらい。白い肌に、緑と茶色のまだら模様。頭頂部には、つるりと光る皿があった。
(河童だ!)
妖怪アニメが大好きだったKさんは、思わず駆け寄って話しかけた。
「何してるの?」
河童は特に驚いた顔も見せず、
「やあ」
と呟いた。
河童が言葉を話せる事に、Kさんは大喜びした。
「友達になってよ! 一緒に遊ぼう!」
河童は無表情のまま、こくりと頷いた。
二人は蟹や小魚を捕まえたり、相撲を取ったりして遊んだ。河童の肌はぬるぬるとして掴みどころがなく、相撲では一度も勝てなかった。
気づけば、辺りは暗くなり始めていた。
「そろそろ帰るね。また遊ぼう!」
Kさんの言葉に、河童はぼそりと呟いた。
「……見つからなかったらね」
どういう事だろうと思いつつも、Kさんは笑顔で手を振った。
河童は終始表情に乏しかったが、微かに笑って手を振り返してくれた。
家に帰ると、出迎えた母が顏をしかめて叫んだ。
「あんた、ものすごく臭いよ! 服も、なんでこんなにベトベトなの!」
玄関で服を脱がされ、今すぐ風呂に入るよう言われた。
風呂から上がると父が帰宅しており、そのまま夕食の席に着いた。
Kさんは新しい友達が出来た事が嬉しくて、つい河童の話をしてしまった。
初めは本気にしなかった両親も、詳細を語るうちに表情が強張ってきた。
「あの、大きな岩のある所か?」
「うん」
そこまで聞くと、父は黙り込んだ。
翌朝、Kさんが目を覚ますと、何やら家の外が騒がしい。
嫌な予感がしたKさんは、家を飛び出すと川へと向かった。
川には大勢の人が集っており、父や警察官の姿もあった。
やがて救急車が到着し、担架の上にまだら模様の生物を乗せた。
「ひどい! 河童に何をしたの! 友達なのに!」
泣きじゃくるKさんに、父は頭を撫でながら優しく言った。
「あの子は……河童じゃないよ。ほら、おまえも何度か遊んだ事があるから知っているだろう。五年生のY君だ。しばらく前に、流されて行方不明になっていた」
遺体の肌は変色し、髪は抜け落ちて頭蓋骨が見えていたという。
当時、Kさんは河童の話を両親にした事を随分と後悔した。
もちろん今では、あれで良かったのだと納得している。
最恐賞「娘の腕」中村朔
Sさんは1年前、事故で4歳の娘を亡くした。
転げたビー玉を追いかけて車道に出た娘が、車に轢かれたのだ。
とっさに伸ばした手が娘に届かなかったことが、Sさんの心に、ずっと重い枷として残っていた。
そのせいか、夢を見るようになった。
夢の中で、Sさんは娘と歩道を歩いている。
車道に飛び出す娘の腕を、Sさんが思い切り引っ張る。
間に合った、そう安堵したところで夢が覚める。
そんな夢を、繰り返し見た。
夢を見るようになりしばらくしてから、部屋の扉が閉まらなくなった。
扉は動くが、最後の10センチくらいが閉まらない。
Sさんは家の建付けの問題だと思って放置した。
それよりも、もっと気にかかることが起きていたからだ。
夜、眠っていると、枕元からすすり泣く声が聞こえてくる。
Sさんにはそれが、娘の声に聞こえてならなかった。
このことを信心深い母に相談すると、とある霊能者を紹介された。
泣き声が気になっていたSさんは、霊能者を訪ねた。
和室に通され、身に起きていることを話すと、霊能者はSさんの隣を見て、
「娘さんは泣いています。腕が痛いのでしょう」
と言った。
腕という言葉に思うところがあり、Sさんはいつも見る夢のことを話した。
私が引っ張るからでしょうか、そう尋ねると、霊能者は首を横に振って、Sさんの背後を指した。
和室の襖は、10センチほど開いたままになっていた。
「貴女が引っ張るから、娘さんの腕が伸びてしまっています。
娘さんは貴女の隣にいますが、伸びた腕が床を這い廊下まで続いている。
腕が襖に挟まって、それが痛くて泣くのです」
Sさんの後悔が、娘をこの世に縛っている。
そして娘もSさんの側にいたくて、痛みを堪えているのだと言う。
霊能者の言葉に、Sさんの目から涙が溢れた。
隣にいてくれることが嬉しかった。
でも、それが今も娘を苦しめている。
それはSさんにとって、何よりも辛いことだった。
「娘さんの成仏を、お祈りしてよろしいですか」
霊能者の言葉に、泣きながら頷いた。
ごめんね、側にいてくれて、ありがとう。
祈りの声に合わせて、何度も繰り返す。
やがて、隣からすすり泣きの声が聞こえてきた。
声はしばらく続いたあと、泣き止むようにスンと鼻をすする音がして、それから聞こえなくなった。
お祈りが終わると、霊能者は部屋の襖を押した。
襖は隙間なく、ぴたりと閉まった。
それ以来、娘の手を引っ張る夢は見なくなった。
扉が閉まらなくなることも、起きなくなったという。
総評コメント
今回のお題は「後悔」。これまでのマンスリーコンテストの中でも抽象度の高いお題で、珍しかったのではないでしょうか。応募数は若干いつもより少ないながらもハイレベルで一次選考を突破する作品数は多かったです。二次選考以降は、話の面白さ(怖さ、新鮮さ)と後悔というお題にどれだけ沿ってるかという観点でさらに絞りました。田舎の風習風俗に纏わる話は非凡な話が多く大変面白いのですが、一方で信ぴょう性を疑われる側面はやはり傾向としてあるでしょう。そこで、できるだけ地域、怪異が起こった年代、筆者がその話を聞き及んだ背景を入れて、信頼度をあげていただければと思います。絶対に明かせないのであれば、その理由(口止めされている、害が及ぶ)など一言添えてもよいかと思います。
また、「後悔」について何について後悔しているのか、あるいは後悔していないのか、今一つはっきりしない怪談もありました。もっとこうしておけばよかったというのはわかるものの、切実さの薄いものも最終的な選考ではややポイントが下がるので、話としての面白さ、怖さ、新鮮さに加え、テーマがその怪にいかにしっかり根付いているかが最終的な評価のポイントにもなりますので、今後もテーマとしっかり向き合った怪談を心がけていただけると幸いです。
最恐賞は今月は2作、「河童は友達」墓場少年と「娘の腕」中村朔。「河童と友達」はシンプルな作品ですが子供心に残る後悔の複雑な色が印象深く、ノスタルジックかつ文学的な味わいがありました。終わり方もよかったと思います。「娘の腕」は評価の難しい霊能者の解説がメインとなる話ですが、話のレア度、母子の心のありよう、情愛に読みごたえがあり、最恐賞に選出いたしました。
佳作3作は「肉じゃがと心残り」おがぴー、「縁切り神社」月の砂漠 、「じんこく」井上回転。「肉じゃがと心残り」はタイトルにもありますが、後悔というよりは心残りという表現がぴたりとくる話で、若干そこが惜しかったようにも思いますが、展開の妙があり、恐怖が最後にしっかりと残る作品でした。「縁切り神社」は後悔を逆手にとり、「後悔していない」をテーマにした作品で、やられたという思いで拝読しました。内容も毒っけがありつつ不思議・奇妙で面白く、まさに怪異なる話でした。「じんこく」はいちばん意味がわからない、想像することすら難しい怪異で、そこに実話怪談らしさと恐ろしさがある作品。わからないことがいちばん怖いということをまざまざと感じさせてくれました。
選考過程は以下の通りです。
●最終選考対象
「お誘い」碧絃
「肉じゃがと心残り」おがぴー
「じんこく」井上回転
「ナスの精霊牛」雨水秀水
「河童は友達」墓場少年
「娘の腕」中村朔
「縁切り神社」月の砂漠
「継母」夕暮怪雨
「えべっさん」雨森れに
●二次選考通過
「レアカード」アスカ
「お誘い」碧絃
「祖父と喧嘩した日」唎酒師のカズ
「肉じゃがと心残り」おがぴー
「じんこく」井上回転
「その公園では」梵天堂ブラフ
「ナスの精霊牛」雨水秀水
「河童は友達」墓場少年
「娘の腕」中村朔
「縁切り神社」月の砂漠
「母の御守り」月の砂漠
「カーテン恐怖症」ホームタウン
「継母」夕暮怪雨
「獣のにおい」春日線香
「家の掟」井上回転
「地蔵を蹴りたい」井上回転
「えべっさん」雨森れに
「こっちにすればよかったでしょ」あんのくるみ
●一次選考通過
「終の棲家」影絵草子
「レアカード」アスカ
「お誘い」碧絃
「祖父と喧嘩した日」唎酒師のカズ
「肉じゃがと心残り」おがぴー
「見守る者の影響」おがぴー
「八月十五日の悔夢」おがぴー
「じんこく」井上回転
「顔文字」かわしマン
「すててくれなかった」宿屋ヒルベルト
「土地神」緒方あきら
「その公園では」梵天堂ブラフ
「ナスの精霊牛」雨水秀水
「八月三十一日」かわしマン
「河童は友達」墓場少年
「喧嘩別れ」のっぺらぼう
「娘の腕」中村朔
「実家泊り」豫座州長
「縁切り神社」月の砂漠
「黒い財布」月の砂漠
「母の御守り」月の砂漠
「実際見るとそんなに面白いもんじゃないよ」渡戸 章五
「蜻蛉の呪い」昭和オカルト奇譚@マサ
「迂回路」高崎 十八番
「後悔」恣
「カッパ捕獲許可証」みなつき
「カーテン恐怖症」ホームタウン
「婆孝行」沫
「死相」筆者
「継母」夕暮怪雨
「獣のにおい」春日線香
「家の掟」井上回転
「地蔵を蹴りたい」井上回転
「死のダイブ」真崎稔明
「忘れ物」司 翆々稟
「無知という名の罪と罰」怪咲歌影
「えべっさん」雨森れに
「小指の所在」雨森れに
「咀嚼音」夕暮怪雨
「こっちにすればよかったでしょ」あんのくるみ
さて、10月のお題は「写真」に纏わる怖い話。心霊写真だけでなく、写真がキーとなるような怪談をお待ちしております。ふるってご応募くださいませ。
今回より月末〆切の翌月15日発表に変更となりましたが、投稿期間を確保するために次回は11月30日締め切り、発表を12月15日とさせていただきます。
また、今後は次回のお題発表を毎月1日に先行で発表いたします。
11月30日「写真に纏わる怖い話」締切
12月1日「瞬殺怪談公募企画第2弾」スタート
12月15日「写真に纏わる怖い話」結果発表
12月31日「瞬殺怪談公募企画第2弾」〆切
1月1日「1月のお題」発表
1月15日「瞬殺怪談公募企画第2弾」中間発表
1月31日「瞬殺怪談公募企画第2弾」最終結果発表
という流れとなります。
移行期で皆様にはご面倒おかけいたしますが、新しいスケジュールにて今後もお付き合いいただけましたら幸いです。
何卒よろしくお願い申し上げます。
現在募集中のコンテスト
【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話
締切 | 2024年11月30日24時 | |
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結果発表 | 2024年12月16日 | |
最恐賞 | 1名 Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス |
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優秀賞 | 3名 竹書房怪談文庫新刊3冊セット |
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応募方法 | 下記「応募フォーム」にて受け付けます。 フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム | お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp |