マンスリーコンテスト 2023年10&11月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2023年10&11月結果発表

最恐賞
「Pのクラス」緒音百
佳作
「写真の中の男の人」星海玲桜
「家族塚」住依為信
「本人確認」おがぴー

最恐賞「Pのクラス」緒音百

十七年前、中野さんが高校一年生の頃。とある写真がクラスで議論を巻き起こした。
どこかの広場を写した一枚。

「異国情緒と言えば聞こえはいいんですけど、合成っぽさもある不自然な印象の写真でした」

撮影場所をPとする。
写真を持参した西君は「亡くなった祖父と出掛けた際に撮影したもので、具体的な場所は覚えていないが、絶対に本物である」と力説した。
仲良しクラスと評判だった一年四組は、Pの実在について支持派と懐疑派に二分された。
休み時間毎に地図を広げてはPを探し、Pに関する考察は白熱。
パソコン室で検索したり、掲示板で尋ねたりしても手がかりは無し。
スケッチ大会ではクラス全員がPを描いた。真面目に取り組めと叱る美術教師に対し、中野さん達は「真面目に描いているのに」と冷ややかだった。
ある時のクラス会でカラオケに行った。誰かが入れた曲の映像に、一瞬、Pが映った。
裏返したデッキブラシに蓮根を並べたみたいな風景。
――ここだ!
カラオケルームは狂乱の渦になり、映像の配信会社を調べ、代表で中野さんが問い合わせた。
数日後に返事があったが「問い合わせの曲に該当する風景はない」という。
もう一度同じカラオケ店の同じ機種に同じ曲を入れたところ、Pはどこにも映っていなかった。
一年四組は落胆の空気に包まれた。

「Pは市内のどこかにあるから手当たり次第に探せば見つかると思う」
誰かの提案で数ヶ所の候補地を挙げ、ちょっとしたクラス遠足が催された。
しかし成果はあがらない。
日曜日の夕方、一行は最後の候補地である原っぱへと徒歩で向かった。
すれ違いざまに「遠足?」と女性が尋ねる。
「そうです。クラス全員で行きたい場所があって」
「一人足りないから無理じゃない?」
女性の言葉に中野さんは嫌な気持ちになった。他の誰もが似た表情を浮かべている。
気分が削がれ、原っぱには行かずに解散した。
それきりPは下火になった。

発端である西君曰わく「俺はいつの間にか蚊帳の外だった。あの写真はクラスの誰かが持って行ったきり返して貰ってない」のだそうだ。
卒業後もクラス会を開くとPの思い出話になったが、決まって誰かが「やめて!」とヒステリーを起こすので、やがて話題にのぼらなくなった。

「一年四組では入学してすぐに一人の生徒が亡くなりまして、今思えば、その共通体験がクラスの一体感を生んだのかもしれません」と中野さんは語った。

総評コメント

今回のお題は心霊と縁の深い「写真」。おなじみの心霊写真から一風変わった謎の写真に至るまで様々な怪話、恐怖体験が寄せられました。
メジャーなテーマであったことと、1か月半と募集期間が長かったことも重なり、かなりの応募数が寄せられ難しい選考でもありました。
最恐賞は、もっとも謎が多く、それでいてそういうこともあるのかもしれないと思わせる実話感がしっかりと感じられた「Pのクラス」緒音百。Pは場所を表しますが、タイトルも良かったと思います。一枚の写真を発端とした異様な熱狂、集団催眠のような側面が薄気味悪くも恐ろしく、奇怪さと恐怖がうまくブレンドされた点を評価いたしました。
佳作1作目は「写真の中の男の人」星海玲桜。こちらは非常にシンプルで素直な怪談で、ことさら恐怖を盛り上げるでもなく淡々と綴られていますが、明らかにおかしな事象を普通に受け流す家族という1点が何とも言えぬ居心地の悪さ、いびつさを醸しているのが印象に残りました。
佳作2作目は「家族塚」住依為信。最後に恐怖の理由が明かされるタイプの話ですが、創作的なオチ感はなく、嫌味なく怪談として仕上がっているのが良かったと思います。ただ商業出版として、差別的な用語ととられかねない言葉には注意しましょう。
佳作3作目は「本人確認」おがぴー。思考停止系の怪談で、全応募作の中でも異質なお話です。呪いや祟り等、闇深い話が全体としては多い中で、明るい表情を持ちながらしっかりと怪談であるところが面白かったと思います。
その他、印象に残った優秀作として、「釘を刺すべく」井上回転、「叶ったら開けてね」宿屋ヒルベルトの2作も挙げさせていただきます。
今回は、少し小説風の作品が多く、信憑性の部分では疑問符がつく話が目立ちました。基本は自らの体験をつづる、見聞きした怖い話、取材した怪事件をつづるものですから、リアル感が失われるほどの演出、脚色は逆効果になります。もちろん聞いたままに書くだけではなく、読み物として楽しめるように仕立てることは当然ですが、恐怖や緊張感をそいでしまうような余計な文が入っていないか熟考してみることをお勧めします。ライトノベルのような感覚、文章のノリでつい書いてしまっているようなところが見受けられました。
またご自身の体験を送ってくださる方の中には霊感がある方も少なからずいらっしゃるかと思います。そういう皆様にとっては、視えてしまうことが日常であり、霊の存在も当たり前であると思いますが、一般的には視えない人のほうが多く、霊の存在には懐疑的な方もおられるわけで、そうした感覚を忘れずに綴っていたけると、より広い共感を得ることができることと思います。
今回のテーマは写真でしたが、その写真が目に浮かぶように描写できている作品はやはり目を引きます。卒業アルバムの写真、修学旅行の写真、遺影が今回投稿が多かったトップ3ですが、実際の写真を掲載できればいいですが、文章のみで写真のおかしさ、不気味さを伝えるしかないので、そこは丁寧な描写があってほしいところです。わりとさらっと「ぼやけていた」「首がなかった」など書いて終わりになってしまっているので、どんなふうにぼやけているのか、首の断面はどうなのかなどを描くと、また違ってくると思います。ほんの少しの具体性が恐怖を増す、それを意識していただけると作品に深みが増してきます。
選考過程は以下の通り。

●最終選考対象
「顔出し看板恐怖症」ホームタウン
「Pのクラス」緒音百
「沖縄旅行で撮った写真」キアヌ·リョージ
「本人確認」おがぴー
「万歳」夕暮怪雨
「叶ったら開けてね」宿屋ヒルベルト
「家族塚」住依為信
「腐敗」のっぺらぼう
「写真の中の男の人」星海玲桜
「遺曳」猫科狸
「ポツンとそこにいる」唎酒師のカズ
「釘を刺すべく」井上回転

●二次選考通過
「顔出し看板恐怖症」ホームタウン
「Pのクラス」緒音百
「知らぬ家族」雨森れに
「餓鬼虫」大和かたる
「沖縄旅行で撮った写真」キアヌ·リョージ
「家族写真」中村朔
「削られた顔」月の砂漠
「牛島の叔母」沫
「本人確認」おがぴー
「万歳」夕暮怪雨
「叶ったら開けてね」宿屋ヒルベルト
「家族塚」住依為信
「腐敗」のっぺらぼう
「写真の中の男の人」星海玲桜
「あの世ガール」水剣水鏡
「どっち?」豫座州長
「見つけて」差掛篤
「遺曳」猫科狸
「ポツンとそこにいる」唎酒師のカズ
「釘を刺すべく」井上回転
「幽霊退治」雪鳴月彦

●一次選考通過
「顔出し看板恐怖症」ホームタウン
「Pのクラス」緒音百
「知らぬ家族」雨森れに
「写っちゃいけないのが写った」松村十三
「餓鬼虫」大和かたる
「沖縄旅行で撮った写真」キアヌ·リョージ
「忘れないで」鬼志 仁
「神様の視線」中村朔
「家族写真」中村朔
「家族写真」月の砂漠
「削られた顔」月の砂漠
「牛島の叔母」沫
「AI生成」宿屋ヒルベルト
「集合写真」おがぴー
「本人確認」おがぴー
「万歳」夕暮怪雨
「腕腕腕腕腕」夕暮怪雨
「叶ったら開けてね」宿屋ヒルベルト
「家族塚」住依為信
「狭間の同乗者」水剣水鏡
「モニターの誰か」筆者
「真夜中の証明写真」墓場少年
「腐敗」のっぺらぼう
「写真の中の男の人」星海玲桜
「水に濡れた理由」雪鳴月彦
「母と娘」かわしマン
「あの世ガール」水剣水鏡
「どっち?」豫座州長
「見つけて」差掛篤
「遺曳」猫科狸
「疎通」猫科狸
「入学式の写真」唎酒師のカズ
「写らない女」瑞雲閣華千代
「ポツンとそこにいる」唎酒師のカズ
「釘を刺すべく」井上回転
「幽霊退治」雪鳴月彦
「ズットイッショ」水剣水鏡
「恩を怨で返された話」水剣水鏡
「サロンモデル」碧絃
「忘れ物」かおる
「生き神信仰」影絵草子
「幽霊の立ち位置」影絵草子
「何人見た?」影絵草子

さて、ただいまは投稿瞬殺怪談の収録をかけたお題「超短編」を募集中です。年内大晦日まで受け付けております。ふるってご応募くださいませ。
そして新年、1月1日に新しいお題の発表となります。

12月31日「瞬殺怪談公募企画第2弾」〆切
1月1日「1月のお題」発表
1月15日「瞬殺怪談公募企画第2弾」中間発表
→翌1月16日へ延期となります。お待たせし申し訳ありませんが今しばらくお待ちくださいませ。
1月31日「瞬殺怪談公募企画第2弾」最終結果発表

引き続き皆様のご投稿お待ちしております!

現在募集中のコンテスト

【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話

締切 2024年11月30日24時
結果発表 2024年12月16日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp