竹書房怪談文庫TOPマンスリーコンテスト2024年2月結果発表
マンスリーコンテスト 2024年2月結果発表
怪談マンスリーコンテスト
ー 怪談最恐戦投稿部門 ー
2024年2月結果発表
- 最恐賞
- 「おじいちゃんの電車」宿屋ヒルベルト
- 佳作
- 「禍日」ホームタウン
「順番待ち」筆者
「故郷の景色」怪談を千話集める人
最恐賞「おじいちゃんの電車」宿屋ヒルベルト
悠馬くんの祖父はかつて大手デベロッパーの開発職にいて、首都圏の鉄道計画に携わっていたという。昔、新宿駅を一緒に歩いていて「この辺りはおじいちゃんたちが図面を引いたんだよ」と言われて驚いた記憶があるそうだ。定年前の最後の大きなプロジェクトが丸ノ内線方南町支線の延伸計画で、結局、検討段階で破棄されてしまったのが心残りだったと、折に触れて語るのを悠馬くんは聞いていた。
がんを患い長く病院にいた祖父だったが、余命宣告を受けて在宅療養に切り替わり、久しぶりに家に戻ってきた。
祖父が妙なことを言い出したのは、亡くなる一か月ほど前からだった。
「もう工事がそこまで進んでるんだねえ」
ある日、悠馬くんが部屋に様子を見に行くと、祖父は電動ベッドから降り、耳を床に押し当てて這いつくばってニコニコしていたのだという。
肩を抱えてベッドに戻してあげながら「何の話?」と訊くと、
「地下鉄の工事だよ。ほら、微かだけど掘る音が聞こえるんだ」
もちろん、何の音も聞こえないのだが。
ああ。悠馬くんは理解した。祖父の語る丸ノ内線の計画では、自宅のあるF市の方まで路線を延伸するはずだったのだと聞いていた。
祖父は今、諦められない仕事の夢を見ているんだ――入院中に祖父の認知症がかなり進んでいたことは悠馬くんも分かっていたから、否定するようなことは言わなかった。
祖父は毎日のように床下からの、他の人には聞こえない「地下鉄工事」の音を楽しんでいた。
「もうすぐ、うちの真下に来るねえ」
そう言って無邪気に笑っていた日の晩、悠馬くんの祖父は家から姿を消した。
翌朝、警察から連絡があった。祖父の遺体が新宿駅の構内で発見されたという。
変死扱いで検視を受ける必要はあったが、事件性のない衰弱死という結論だった。
始業前でシャッターの降りた駅のホームにどうやってもぐり込んだのかはわからずじまいだったが、認知症の診断があったこともあり、夜中に起きだし、急に昔の仕事に関わる場所に行きたくなってタクシーを拾ったのだろう……という話になった。
悠馬くんから地下鉄の話を聞いていた両親は「もしかしたら、その電車がおじいちゃんを迎えに来て、思い出の場所に連れてってくれたのかもね」なんて言って涙ぐんでいたが。
悠馬くんは、床下からやって来たのはそんな良いモノではないと思っている。
帰ってきた祖父の遺体が、何かに驚愕し怯えたような表情で固まっていたからだ。
総評コメント
今回のお題は「地下鉄」。地下鉄怪談ということで、やはり人身事故に纏わる話が目立ちました。暗い中を走る地下鉄ということで、車窓にこの世のものではないものが映るというお話も非常に多かったです。不思議と今月は「私、僕」といった一人称の作品、ご自身の体験を書かれている方の割合が多く、それだけ身近なテーマであったことの証左とも思います。一方で、残念ながら創作怪談、ホラーショートの応募作も多い回でした。
最恐賞は地下鉄の車両もホームも出てこない作品ですが、見事にテーマを活かしていた「おじいちゃんの電車」宿屋ヒルベルト。風変わりであり、不気味であり、けして解き明かされることのない恐怖が最後に残る秀作です。佳作1作目は、「禍日」ホームタウン。リアルな擬音が作品にリズムをつけ、話の結び方が秀逸でありました。2作目は「順番待ち」筆者。大多数が車両とホームを舞台とする中、駅構内のトイレを舞台にした面白い作品です。駅員の中に怪が当たり前のように浸透しているシュールさが良かったと思います。3作目は「故郷の景色」怪談を千話集める人。誤解を恐れずにいえばありきたりな話ですが、地下鉄ならではの演出、描写が光る怪談であり、心理的にも共感を呼ぶ作品であった点を評価いたしました。
今回は基本的な文章の書き方、一般的なルールについてお話しします。本コンテストは最恐賞には文庫収録のチャンスが副賞になっており、これまでも「怪談最恐戦」の総集編や、同テーマのアンソロジー集に収録され、本年は3/29発売の「呪録 怪の産声」に作品が収録されます。皆様、最恐賞を目指してご投稿いただいているわけですから、最終的には作品が「本」になることを意識して執筆していただきたいと思っております。
まず、改行について。様々なデバイスからご投稿されており、スマホからという方も多いと思いますが、メールやSNS感覚での改行が目立ちます。一文(文の始まりから、句点まで)の途中で改行しないようにしましょう。文頭は作文と一緒で、字下げをします。改行をしたら、かならず一字ぶん字下げします。その際、半角スペースではなく、全角スペースで下げてください。例外として、会話文(「)から始まる場合は字下げをしません。
次に「!」「?」のヤクモノの使い方です。「!」「?」のあとは全角スペースを入れるのが文章の決まりです。ただし、とじカッコの前はスペースはいりません。
「なんだ?誰かそこにいるのか?」は、「なんだ? 誰かそこにいるのか?」
「やばい!逃げろ!」は、「やばい! 逃げろ!」
となります。
三つめは、三点リーダー「…」の使い方です。これは出版物の慣例で絶対ではありませんが、基本的な校正基準として、三点リーダーは2つで1セット、もしくは4つなど偶数で使います。1つ、3つなど奇数の使用は避ける傾向にあります。
「怖い…」「………」は「怖い……」「…………」とするのが一般的です。
また、「・・・」や「。。。」は使いません。沈黙や、間を表現したい場合は、三点リーダーを使用します。
四つ目は、語調の統一です。「です、ます」と「である、だ」が地の文で混ざらないようにしましょう。
他にもいろいろありますが、まずは以上の文章ルールを踏まえて作品を投稿していただけますと幸いです。
それでは次回も作品お待ちしております。まずは今月3/31まで「散歩」をテーマに募集しておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。
★最終候補
「閃光」あんのくるみ
「暗闇に潜むモノ」キアヌ・リョージ
「懺悔」夕暮怪雨
「凝視する旧友」おがぴー
「順番待ち」筆者
「変わらない」千稀
「禍日」ホームタウン
「故郷の景色」怪談を千話集める人
「おじいちゃんの電車」宿屋ヒルベルト
「虫の知らせ」影絵草子
★二次選考通過
「閃光」あんのくるみ
「暗闇に潜むモノ」キアヌ・リョージ
「居眠り」夕暮怪雨
「懺悔」夕暮怪雨
「凝視する旧友」おがぴー
「訳ありの駅」鬼志 仁
「よく会うイケオジ」月の砂漠
「順番待ち」筆者
「変わらない」千稀
「禍日」ホームタウン
「故郷の景色」怪談を千話集める人
「地下鉄ニアデス」緒方さそり
「オトシモノ」白石一華
「おじいちゃんの電車」宿屋ヒルベルト
「虫の知らせ」影絵草子
★一次選考通過
「閃光」あんのくるみ
「後ろからの警告」高倉樹
「暗闇に潜むモノ」キアヌ・リョージ
「居眠り」夕暮怪雨
「懺悔」夕暮怪雨
「格納」雨森れに
「凝視する旧友」おがぴー
「訳ありの駅」鬼志 仁
「よく会うイケオジ」月の砂漠
「地下二階連絡通路」月の砂漠
「バッサーさん」小祝うづく
「順番待ち」筆者
「回送電車」沫
「角2の封筒」唎酒師のカズ
「乗ろうよ」佐藤健
「変わらない」千稀
「禍日」ホームタウン
「故郷の景色」怪談を千話集める人
「地下鉄ニアデス」緒方さそり
「オトシモノ」白石一華
「おります」碧絃
「車窓」怪談を千話集める人
「おじいちゃんの電車」宿屋ヒルベルト
「虫の知らせ」影絵草子
さて、3月のお題は「散歩」です。締切は3月31日、発表は4月15日です。
さらに4月の募集開始が4/1から!
お題は「草木」。
皆様の挑戦、引き続きお待ちしております!
現在募集中のコンテスト
【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話
締切 | 2024年11月30日24時 | |
---|---|---|
結果発表 | 2024年12月16日 | |
最恐賞 | 1名 Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス |
|
優秀賞 | 3名 竹書房怪談文庫新刊3冊セット |
|
応募方法 | 下記「応募フォーム」にて受け付けます。 フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム | お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp |