マンスリーコンテスト 2024年3月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2024年3月結果発表

最恐賞
「記憶に無い別れ際」筆者
佳作
「背を追う人」沫
「迷子の祖父」月の砂漠
「手練手管」墓場少年

最恐賞「記憶に無い別れ際」筆者

 敬親さんはある時、妙な夢を見た。それはもう十年も前に別れた彼女、恵美さんと一緒に散歩をしている夢である。
 敬親さんと恵美さんはやけに霧の濃い山道を手を繋ぎながら歩き、どこかへと向かっている。ただそれだけの夢。そして敬親さんは起きてすぐに、「彼女に何かあったか?」と考えた。
 迷った挙げ句、敬親さんは恵美さんに電話を掛けた。もう既に十年間も使っていない電話番号である、普通に考えたら繋がる確率の方が少ない。――が、奇跡的にもそれは彼女に繋がった。
 恵美さんは電話に出てすぐ、敬親さんにこう聞いた。「何かあったんだよね?」と。
 なんでも昨晩、恵美さんの夢に敬親さんが出て来て、一緒に手を繋ぎながら霧の濃い山道を歩いていたと言うではないか。それに驚いた敬親さん、「同じ夢を見た」と告げると、「あの山道って、一緒に出掛けた旅行で最後に立ち寄った場所だよね?」と聞く。
 瞬時に記憶がよみがえる。確かにそうだ。旅行の最終日、近隣の神社にお参りしてから帰ろうと言う事になって、早朝に二人で散歩をした筈だった。
 だが、敬親さんの記憶はそこまでで、その後に立ち寄ったであろう神社の事や、その最終日に家まで帰った記憶すら無いのだ。
 そしてどうやら恵美さんの方も全く同じ様子で、なんなら家に帰った後、「どうして私達ってそのまま別れて会わなくなったんだっけ?」と、その理由すら覚えていないと言う。
 確かにそうだと思った。実際敬親さんも、恵美さんに別れ話をした記憶も無ければ、別れに至る原因すら覚えていないのだ。ただその旅行から帰ったと同時に、ぱたりと会わなくなっただけの話なのである。
「あそこで何かあったんだっけ?」と、二人の声が重なる。そしてどちからともなく、「機会があればもう一回、あの場所に行ってみようか?」と言う話になり、そして電話を終えた。
 だがその機会は無かった。後日、敬親さんが掛けた電話番号は、現在使われていないと言うガイダンスが流れるばかりで、もう恵美さんと連絡を取る手段は失われてしまっていたのである。

総評コメント

 今回のお題は「散歩」。早朝の散歩から真夜中の散歩、園児のおさんぽ、犬の散歩など様々なシチュエーションでの散歩怪談が集まりました。やはり朝や夜のひとり散歩における怪との遭遇が圧倒的に多く、続いて飼っている犬を連れての散歩中にでくわした怪に投稿が集中しました。そんな中で最恐賞、「記憶に無い別れ際」(筆者)は、カップルが二人で散歩したというシチュエーションを回想しつつ、何か得体の知れない大きな闇に飲み込まれていたことに気づく異色の作品です。最後の結びからして、どこから現実であるのかも曖昧となり、何とも言えない不安感に襲われる怪作です。
 佳作1作目、「背を追う人」(沫)は、祖母に言われて神社に散歩に行った少女が体験した怪異で、こちらも大変不思議なお話。視点の切り替わる瞬間など、表現的にも面白い良作です。2作目「迷子の祖父」(月の砂漠)は、散歩に行った祖父が道に迷い、異世界(彼岸か)に迷い込んでしまう話。異界の描写が少ないセリフながらリアル感があり、散歩のテーマにもきっちりとはまった作品でした。3作目、「手練手管」(墓場少年)は緊迫感あるホラー描写が素晴らしく、恐怖の表現が抜きんでいたと思います。惜しむらくは最後の子どものセリフに若干のあざとさを感じた点ですが、鼓動が聞こえてくるようなホラー感は抜群でした。
 その他、最終選考に残った作品は甲乙つけがたく、意外性、オリジナリティ、表現それぞれ光るものがありました。採話した内容を一度自分の中に落とし込み、怪談として再構築する過程においてどれだけリアリティを残せるか、余計な考察をせずただ怪異そのものを提示する中でどれだけ読者に恐怖を伝えることができるか、そこに創作とは違う難しさがあると思います。書き手(己)の存在を前面に出さず、それでいて書き手の個性を表現に忍ばせる粋な作品があるとテンションがあがります。
 それでは次回も作品お待ちしております。まずは今月末4/30まで「草木」をテーマに募集しておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

●最終選考対象作
「誰かの便り」緒音 百
「散歩への誘い」おがぴー
「10円玉」黒川錠
「七めぐり」中村朔
「背を追う人」沫
「探し物」天堂朱雀
「赤地蔵」ホームタウン
「記憶に無い別れ際」筆者
「手練手管」墓場少年
「迷子の祖父」月の砂漠
「モモとハナ」緒方さそり

●二次選考通過
「誰かの便り」緒音 百
「幽の香」小祝うづく
「散歩への誘い」おがぴー
「田舎の散歩道」瑞雲閣 華千代
「無縁墓」夕暮怪雨
「10円玉」黒川錠
「七めぐり」中村朔
「背を追う人」沫
「探し物」天堂朱雀
「赤地蔵」ホームタウン
「不法投棄」千稀
「記憶に無い別れ際」筆者
「手練手管」墓場少年
「迷子の祖父」月の砂漠
「モモとハナ」緒方さそり
「ふらふらかみさま」宿屋ヒルベルト
「あやつり爺さん」雨森れに

●一次選考通過
「誰かの便り」緒音 百
「幽の香」小祝うづく
「散歩への誘い」おがぴー
「田舎の散歩道」瑞雲閣 華千代
「無縁墓」夕暮怪雨
「10円玉」黒川錠
「閉める。」藤野夏楓
「神様はお散歩中」おがぴー
「七めぐり」中村朔
「風船」沫
「背を追う人」沫
「前歯」沫
「残り香」沫
「擦れ違う人々」沫
「探し物」天堂朱雀
「波紋」天堂朱雀
「妨害」天堂朱雀
「赤地蔵」ホームタウン
「不法投棄」千稀
「夢日記」筆者
「鬼門の場所」筆者
「記憶に無い別れ際」筆者
「手練手管」墓場少年
「早朝散歩」豫座州長
「迷子の祖父」月の砂漠
「拾いグセ」月の砂漠
「黄昏散歩 二題」緒方さそり
「天下の分け目」白石一華
「モモとハナ」緒方さそり
「ふらふらかみさま」宿屋ヒルベルト
「隣の積み石」碧絃
「数の住宅街」影絵草子
「あやつり爺さん」雨森れに

さて、現在募集中の5月のお題は「数字」に纏わる怖い話。締切は5月31日、発表は6月15日です。
皆様の挑戦、引き続きお待ちしております!

現在募集中のコンテスト

【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話

締切 2024年11月30日24時
結果発表 2024年12月16日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp