怪読戦2024ー予選応募用・朗読原作公開!

今年で3年目を迎える怪談朗読に特化したコンテスト「怪読戦」。
さまざまな語り手が群雄割拠する怪談というジャンルにおいて、シーンをさらに盛り上げてくれる新たな才能を、今年も発掘いたします。
優勝者には賞金10万円!! そしてYouTube「竹書房ホラーちゃんねる」における朗読番組「怪読録」への出演をはじめ、オーディブルなどお仕事として活躍できる場をご用意いたします。
第1回優勝者・御前田次郎、第2回優勝者・松永瑞香に続くのは誰だ⁉
https://www.takeshobo.co.jp/sp/kaidokusen/category/kaidoku2024.html

応募方法、予選応募の課題作品となる原稿は、2024年6月17日解禁予定でしたがシステムに不備があり明日に延期、本日は課題作品16本を先行で公開させていただきます。
本年も、指定の課題作品(複数)よりお好きな話をお選びいただき、朗読映像を5分以内で収録の上、LINEにて応募いただく形式を予定しております。
本日公開の課題作品16本のほか、明日発表の指定の怪談文庫の収録話も提出課題にお使いいただくことが可能です。

応募方法公開と応募の受付スタートは2024年6月18日を予定しております。
何卒よろしくお願い申し上げます。

それでは課題作品16本をご紹介いたします!

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1「元気な子」

これはFさんがまだ小学生のころに体験した話である。
彼が通っていた学校は、少し勾配がきつめの坂の上にあった。登校するときは疲れるが、下校するときは楽だったという。
ある日、家に帰宅したFさんは学校にきんちゃく袋を忘れてきたのに気がついた。また怒られてしまうとガッカリしたが、いま母親は買い物に出かけているようだ。このスキにとFさんは学校へとりにもどることにした。きつめの坂をあがり学校に入ると廊下を走って教室に向かう。まだ校庭では遊んでいる生徒たちが何人かいるようだったが、校舎はすっかり静まりかえっていた。教室にある自分の席からきんちゃく袋を手にとって、また廊下を走ってもどっていく。階段へと続く角を曲がったとき、一年生だろうかランドセルを背負った男の子とすれ違った。気にせず階段をおりて一階につくと、下駄箱で靴をはきかえて、そのまま門に向かって校庭を走っていく。門をでて坂を駆けおりている途中、うしろから「いくよー」という声が聞こえてきた。立ち止まり、振り返ると門の前に、先ほど廊下ですれ違ったランドセルの男の子が立っていた。さっきは気づかなかったけれど、知っている子だったのかもしれない。そう考えたFさんは目を凝らしたが、彼が誰なのかわからなかった。いや、そもそも下級生に知りあいはいないはずだ。まわりを見たが他には誰もいないので、男の子はやはり自分に声をかけているようだ。彼はポーズをとると「いちについてー」とまた声をだした。
「よーい、どん!」そう叫んだ途端、男の子はFさんのほうへ向かって、坂を駆けおりてくる。その速度が尋常ではなかった。まるで強風にバサバサと飛ばされる薄い布のように勢いよく、猛スピードで直進してくる。驚いて動けずにいるFさんのすぐ近くまできた男の子は満面の笑みを浮かべていた。ぶつかる! 思わず身をすくめて目を閉じたFさんの真横を、男の子は風のように通りすぎて「あはははッ」と笑い声をあげた。その声が遠ざかっていく。
「あははははは・・・・・・」あっという間に坂をおりきると、男の子は道の角を曲がり、見えなくなった。Fさんは「・・・・・・なんだ、あいつ」と首をひねりながら坂をおりて、そのまま家に向かった。玄関を開けると買い物から帰っていた母親が「おかえり」と出迎えてくれた。
「あんた、またきんちゃく袋、忘れたでしょ」「なんで知ってるの? でも、とりにいってきたよ。ほら・・・・・・あれ? あれ?」持っていたはずなのに、どこにもない。母親は「これ」と手に持ったきんちゃく袋をFさんに見せた。「あんたの友だちが持ってきてくれたよ」
友だちとは誰なのかFさんが尋ねると、母親は、私の知らない子だったと答える。
「なんか変わった子だったよ。玄関開けたらそれ投げて渡してきて。そのまま走ってどこかにいったけど、ずっと大声で笑ってて。元気ねえ」
気になったFさんは、しばらくのあいだ登下校時にその男の子を探すクセがついた。

しかし、ついに卒業するまで、男の子を見つけることはできなかったという。

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2「傷心旅行」

Yさんという女性から聞かせてもらった話だ。
大学生のとき、友人とふたりで旅行にいくことになった。どちらも同時期に彼氏と別れたばかりだったので、いわゆる傷心旅行というやつである。
向かった先は温泉が有名な観光地で、その旅館にも貸切の浴場があった。到着するなり、すぐに入浴を楽しみ、豪華な地元料理と地酒を堪能し、ほろ酔いになったあたりで寝ることにした。
眠っていると小声で「ごめん、ちょっと起きて」と友人が話しかけてきた。「ん? どうしたの?」「ねえ、この部屋、ちょっと変なの」「変って?」「誰か・・・・・・いるみたいなのよ」
ぎょっとしたYさんは体を起こして立ちあがり、部屋の明かりをつけた。
窓際にテーブルと椅子があり、畳に敷かれた布団以外には押し入れ、トイレ、そして簡易のシャワールームがあるだけの部屋だ。念のため隅々まで調べたが特に異常はなかった。友人は酒が残っているらしく、まだ顔がほの赤い。「誰もいないよ。大丈夫だって」「なんか気配がある気がして……」Yさんは「気のせいだよ」といいながらも、念のために鍵がかかっていることを確認してから、再び電気を消して布団に入った。
すぐに眠気がやってきそうだったが(あれ? これ……なんだろ)と妙なことにYさんは気づいた。部屋が静かで自分と友人の息が聞こえる。鼻で呼吸するすうすうという音だ。その音以外にも――息づかいがあった。それは部屋の端からのようにも思えるし、押し入れの前からようにも思えた。Yさんにはどこから聞こえるのか、その位置がよくわからなかったが、あきらかに息の音だ。試しに自分の呼吸を止めて耳をすませる。やはり友人のものではない。男の「はああ、はああ、はああ」という微かに声が混じった、口で息をしている音だ。Yさんは友人に声をかけた。「ねえ、起きてる?」「うん、起きてる」「はああ、はああ」「この息、聞こえる?」「うん、聞こえる」「はああ、はああ」「ホントに誰かいるみたい。これ、隣じゃないよね?」「うん、隣じゃない。この部屋だよ」「はああ、はああ」「さっき見たとき、誰もいなかったのに」「うん、いなかったね」「この声、どこから聞こえるの?」「多分。多分ね、あなたの、すぐ横から聞こえる」次の瞬間、すぐ耳元で「はああああ」という声が響いてきて、Yさんは悲鳴をあげて飛び起き、慌てて部屋の電気をつけて確認した。それでもやはりYさんと友人しか部屋にはおらず、結局、朝まで電気をつけてふたりとも起きていた。
チェックアウトの際、昨晩の出来事をフロントに話したところ「ここはもう、古い建物ですので」と笑って返されたという。

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3「かしわ手」

怪談が大好きで。友人だけじゃなく会うひと会うひとに聞くんですよ、よく。
なんか怖い話、ありませんか? って。
ほとんどのひとたちは「なにそれ?」とか「そんなのない、ない」って答えるんですけど。
ときどきは「ゆうれいみたいな話? そういえばむかしね」って聴くことができる。
まあそれでも、やっぱり夢を見た系の話や金縛り系の話が多いんですけどね。
私、すっかり怪談ジャンキーなんで、もうちょっとやそっとじゃ怖がらないし。
ほら、いるじゃないですか、有名な怪談のひと。誰かに体験あるか聞いたとき、自分の体験とかいいながら、その有名な怪談のひとの話、平気でしちゃうひともいるんです。そういうときは、なんか冷めちゃうんですけど、こないだ金縛り系の話でちょっと変わった話、聞いてテンションあがっちゃって。
和歌山の、お寺がいっぱい集まった山。そこの山には、宿泊できるようなお寺もあるらしいんです。ひとり旅行で観光にいったひとが、そのお寺に泊めてもらって。精進料理っていうんですか、健康によさそうな食事をしたあと、寝ていると音がしたんです。
こんな音だったらしいです。手を叩くような音。間違いなく自分が寝ている部屋のなかで音がしたから目を覚ましたんですけど、体が動かない。
まぶたは開くんですよ。でも指先ひとつ動かせないんです。うわ、なにこれ、って思うんですけど、体が動かないことより驚いたのは青いんです。部屋のなかがカラーライトつけてるみたいに、ぜーんぶ青いんです。寝る前は真っ暗だったはずなのに、なんでこんな色になってるんだって混乱してたら、また手を叩く音がして。鳴った瞬間、今度は真っ赤。唯一、動く目をぎょろぎょろ動かして、赤い部屋を観察したんです、必死に。いったい何が起こってるんだって。そのあとまた音がするんです。音と同時に今度はまた青。しばらくしてまた音で赤になって。さらにしばらくして音で青。それをずっと繰り返すんです。赤になって、青になって、赤になって、また青になって、また赤になる。
これ、このあとどうなるんだ、って思ってたら音がして――真っ暗になったんです。何も見えない。まあ、寝るときの部屋の状態にもどったワケですね。
ああ、良かった、いったい何だったんだろう。夢だったのかな。

そんなことを考えながら目を閉じたら、音がして、すぐ目の前に顔。

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4「溜息」

Cさんという方が体験した話なんですけどね、これ。
そのCさん、毎日仕事が終わるの遅くて。自分の住んでいるハイツに帰るのがだいたい夜の十一時すぎてたんです。部屋にもどってもクタクタなもんだから、ご飯作る気力なんかなくて、いつもコンビニのお弁当買って帰る。冷蔵庫に入れてる作りおきのお茶、コップにこうやって注いで、手ぇあわせて小さな声で「・・・・・・いただきます」ってつぶやいてから食べる。静かな部屋でしーんとしてるから、口のなかのモグモグ、クチャクチャって音だけが頭に響いてくるし、ときおり仕事で面倒な人間関係とか思いだして、こうやってモグモグ食べながらも、はあーって溜息がでる。毎晩そんな感じなんで、そりゃ味気ないってもんじゃないですよねえ。
ある晩、帰ってきて、いつもみたいに寂しくご飯食べていたら、ピンポーンってインターホンが鳴る。Cさん割り箸の動き止めて、壁にかかってる時計みたら、もう深夜の十二時前。こんな時間に誰だろうって首ひねって、インターホンの応答画面見たら「うお」。思わず声でちゃった。知らない人。背の低いお婆ちゃんが、インターホンのカメラ見上げて、こうやってじいっとこっち見てる。誰だろと変に思いながら立ちあがって、こうやってボタン押して「はい」と声だした。「あのう、夜遅く、すみません」とお婆ちゃん、歯がないのかわかんないけど、口をはきはき動かしながらしゃべってる。「はい・・・・・・あの、どちらさまですか?」「わたし、わたしねえ、あなたの家から溜息、溜息聞こえたからねえ、一緒に住もうと思って」「はい? なんですか?」「いや、だからね、あなたね、溜息。溜息ついたでしょう? それって体によくないでしょう? だから、一緒に住んで、住んであげようかと思ってね。どうですか。一緒に住みませんか、一緒に住んだら、もう寂しくないですよ。ふへへ」
Cさんぞっとして、すぐにインターホンのボタン押してお婆さんが映ってる画面消して。
それでもその場から(いまのなに?)って怖くて動けずに体が固まっちゃって。頭真っ白なんです。そのうち玄関のほうからコンコン、コンコンってノックする音。え? え? どうしようって、ちょっとパニックですよね。コンコン、コンコンって、ずっとノックが続いている。どうしたらいいのかわからないCさん、大声だした。「ちょっと! 何時だと思ってるんですか! 帰ってください! 警察呼びますよ!」
そしたらコンコン、コンコンってノックがコンコン、コン・・・・・・。
静かになった。良かった帰ってくれたって、Cさんがふうと息を吐いた瞬間、すぐ目の前にあった窓に、お婆さんがこうやってバンッって貼りついて「ほらあ溜息ついてる!」って笑ってたそうです。

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5「辻褄があわない」 

あるひとがね、家でくつろいでいたら、あんあんって喘ぎ声が隣の部屋から聞こえてきたらしいんです。壁うすいから嫌だなって眉間にシワ寄せてたんですけど、まぁ、とにかくすごいんですよ、その喘ぎ声。あんあん、あんあんって。ため息ついてると、その声がね、だんだん変わっていくんですって。高い声から低い声に。あんあん、あん、ああん、あああ、ああ、おあ、うおああ、おおお、おおおお。
なんかおかしいぞって思って。壁に耳、こうやってあてて。聴いてみたんです。
でも――なにも聞こえなくなった。普通にコトが終わったのかな、妙に感じたのは気のせいだったのかなって壁から耳を離した。そしたらね、たたたた、たたたたんってスマホが鳴るんです。画面見たら知らない番号。いつもはでないけど、夜だったから知りあいの誰かだろうと思って「もしもし」ってでたんです。
「おいッ!」って声がして。「お前、邪魔しやがってッ!」そんなこと言うんです。ビックリしたけど、すぐ間違い電話だってわかってムカついて。どちらにおかけですか? いったい何時だと思っているんですか! って、こっちも怒りを込めた声で言ってやったんです。そしたらね、相手が黙ってなにも喋らない。もういいや、切ろうと思って画面見たら、テレビ通話になっていたんです。見知らぬ男が、鬼みたいな顔で画面を睨んでる。あッと思ったのは怖い顔のせいだけじゃない。その男の顔の横に映っているのは、自分が住んでいるマンションなんですよ。どういうことかわからず息を飲んでいると「お前さ! あそこの部屋の声、盗み聴きしただろう!」。指さしている二階の部屋、確かに自分の部屋の横なんです。「次同じ事したら、耳潰しにいくからな!」そういってスマホ切れたんです。なにがなんだかわからない。カーテンも閉まってるから外からこっちが見えるはずもないし。怖くて真っ青になっていたら、隣の部屋から「はははッ」って甲高い笑い声が聴こえてきて。すぐに頭から布団かぶって震えていたそうです。翌朝おきて昨日のことは夢だったのかなってスマホ確かめたら、ちゃんと通話履歴残ってるし。
怖すぎたんで引っ越し、真面目に考えたみたいですよ。
その二日後ですかね、家に警察がきたのは。隣の住人が亡くなっているのが見つかったらしくて。なにか変ったことがありませんでしたかって尋ねられたから、すぐにスマホのことを話したら、それは別件で隣とは関係ないと思いますって言われて。どうして関係ないんですかって訊いたら。
「隣のひとはね、病気で孤独死したみたいなんです。調べなきゃわからないけど、あの傷み具合からして、ひと月以上は経っているんですよ」

スマホの男がただの不審者でも、なんか辻褄があわないし。辻褄をあわせようと考えれば考えるほど怖くなってきて。やっぱりその部屋、すぐに引っ越したそうですよ。

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6「足を引っぱる」

ひとはひとを過小評価する。ずっと地元に住んでいるとそれは更によくわかる。
若いころの失敗や安易な行動、見た目や育ち、家柄や仕事、表面上のことですべてを判断して悪口を言い続ける。外面、愛想よく笑っている人間も影でなにを言ってるか、わかったもんじゃない。でも、地元から離れても同じようなもんだった。信じている正義や正当を語るひとは、誰かを貶めなければ、それら正義や正当を説明できないようで、ひとの足を引っぱってでも自分を正当化する。つまり、クズだ。
でも私はクズたちに感謝をしている。強くなれたのは、ここまで自分を鍛えることができたのは、私のまわりにいたクズたちのおかげに他ならない。多くの貧しさと侮辱が私をここまで昇華させてくれた。足を引っぱるだけしか能がないクズたちに私は負けなかったのだ。
私は貧しさに負けない人間になった。空腹で落ちこんだとしても水を飲んで気力を興す。
私は侮辱に折れることのない人間になった。押しつけられる価値観を意に介さない。
彼らが馴れあいや傷の舐めあいをしているあいだ、私は汗を流しながら努力を続けた。
そのおかげで、常に冷静を保ち、未熟を誰かのせいにすることなく、未来を見つめることができる。悩んでいる者がいれば、その悩みを笑い飛ばし、金も労力も惜しむことなく助けることができる。弱い者がいれば、例え自分が傷ついたとしても、守るために盾になることができる。辛いことがあっても、こぶしを握って耐えることができるのだ。
自分がそんな人間になる理想なんて持っていなかった。でも私は凄まじく強くなった。ボロボロになっても立ちあがり、ダメと言われても諦めず、無駄などないと信じてここまでやってきた。私は、これからもまだまだ強くなり、誰かを助け続けるだろう。自分が困っても助けを願うことはないが、他人は助けるという強い人間なのだ。
だから、どうか私をこの窮地から救って欲しい。開かない目をなんとかして欲しい。体中の痛みと痺れと悪寒を、なんとかして欲しい。
「ああ、これすごいねー。出血は? 車?」「車です。正面衝突。出血、止まりませんね」
こぶしを握って耐えれば、これくらいの状況なんとか「これ両腕千切れてる? どこいった?」なんとかなるはず、え?
のどが渇いた、水を。ひと口だけ。水をくれないか。そうすれば「喉、破れてるじゃん。これ。首から血の泡でてるよ。ボロボロだね」そうすれば、ボロボロ?
「うわ、ダメだ。これ」ダメ?
「うん、もう反応ほとんどないわ。無駄だよ」無駄?
「先月も同じ交差点での事故、運ばれてきましたよ。あそこ多いんですよね。なんかゆうれいみたいなのが引っぱってたりして。はは」だれか たすけ  て。

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7「あなたは私を知ってる」

家に帰れず、寂しそうにひとりでいる人を見たことがありますか? 家に帰れず、寂しそうにひとりでいる人を見たことがあるなら、あなたは私を見たということです。

排水に溜まった水が淀んでいるのを見たことがありますか? 排水に溜まった水が淀んでいるのを見たことがあるなら、あなたは私を見たということです。

ロウソクが風で簡単に消えるのを見たことがありますか? ロウソクが風で簡単に消えるのを見たことがあるのなら、あなたは私を見たということです。

交尾のあと頭から、かじられているカマキリを見たことがありますか? 交尾のあと頭から、かじられているカマキリを見たことがあるなら、あなたは私を見たということです。

本当のことがいえず親に怒られる子どもを見たことがありますか? 本当のことがいえず親に怒られる子どもを見たことがあるなら、あなたは私を見たということです。

手入れのされていない寂しいお墓を見たことがありますか? 手入れのされていない寂しいお墓を見たことがあるなら、あなたは私を見たということです。

道路に点々とある血の痕を見たことがありますか? 道路に点々とある血の痕を見たことがあるなら、あなたは私を見たということです。

食事を楽しみながらテレビで不幸なニュースを観たことがありますか? 食事を楽しみながらテレビで不幸なニュースを観たことがあるなら、あなたは私を見たということです。

私は、私を見て見ぬふりをしたあなた達を許さない。
必ずあなた達が住む街に向かい、あなた達の住む家を見つけ、同じ目にあわせる。
私は、私を見て見ぬふりをしたあなた達を許さない。

ひとりで部屋にいるとき誰かの視線を感じたことがありますか? ひとりで部屋にいるとき誰かの視線を感じたことがあるのなら、あなたのそばに私がいるということです。

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8「僧、死を知る」

その昔、我が国に寛延〈かんえい〉という僧がおりました。
日頃より修行に熱を入れていた寛延は、ある時期、山に何年もこもり、日々、御仏に祈りを捧げ、精進を根におき、己の信仰を磨き続けておりました。
そろそろ梅雨も明けようかという頃合いの季節、農作業に精を出していた村人がふと目を向けたところ、山がある方角から寛延が歩いてくる。食事かなにかの入用で参られたのではと、村人が寛延に話しかけたところ「あな恐ろしきものをみたり」とつぶやき、そのまま地に伏してしまった。慌てて村人は他の者たちを大声で呼び集め、寛延を近くの家に運んで休ませたが、介抱の甲斐もなく寛延はそのまま息を引き取ってしまった。普通ならなにがあったのかと騒ぐところだが、なにぶん何カ月も山にこもり過酷な修業をしていた僧だけに、村人たちは不思議には思わなかった。当時は山ごもりで命を落とす修行僧も特段めずらしくなかったのである。人々が幸せに暮らせるようにと祈る、強い信心が招いた結果であろう。
悲しんだ村人たちは寛延を座棺に入れ、感謝の念をこめて丁寧に土葬した。
ところが。月日が経ったある日、その村にある浪人がやってきた。その浪人はしばらく前、山で迷った夜があり、偶然出会った生前の寛延に助けられたことがあるという。
山で寛延は浪人に、ため息を混じらせつつ、こんなことを申した。
「私は先の経過を修行中に照覧いたした。つまりはこの目で人々の不寛容、そして仏の無慈悲を知ってしまった。いや、あるいは人々の無慈悲、仏の不寛容かもしれない」
なにを言っているのか理解できなかった浪人は、何度も仔細を確認したが、いっこうに要領を得ず、首をひねっていた。その浪人に寛延はこのように続けた。
「梅雨が明けるころ、気力も限界を迎えた私は、村人たちの前で倒れ、それから間もなく生きたまま土に埋められる。私はこの未来を変えることかできるか否かを話しているのです」
それを聞いた村人たちは大変驚いた。寛延の言葉、その途中までは事実であり、これといって問題はない。しかしながら「生きたまま土に埋められる」とは一体どういうことか皆目見当がつかない。倒れた寛延は目を覚ますことなく、間違いなくそのままこと切れていた。しかし浪人が聞いたという寛延の言葉が本当ならば――その実、寛延はまだあのとき生きており、自分たちは寛延を生きたまま土に埋めたということになる。慌てた村人たちはもう遅いとわかっていながらも、寛延の墓を掘りかえした。座棺をこじ開けてなかを確認したところ、寛延は村人たちが姿勢を整えて、弔ったままの姿で永眠していた。良かった、生き埋めにしたワケではなかったと、安心した村人たちの目の前で、一部始終を眺めていた浪人は舌打ちをすると、憎々しそうな顔で「寛延、見事に成せり」とつぶやき、そのまま煙のように消えてしまった。
寛延は息絶えていたのか。それとも息を吹きかえしながらも、このあと自分を掘りかえす村人のために、そのままの体勢を保って死んだのか。浪人は何者だったのか。誰も答えを得ぬまま、ただ不思議だけが書き残されている。

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9「犬がきらい」

心地よい穏やかな日差しの午後でした。
もう散ってしまった桜の並木道を通りすぎ、交差点で信号待ちをしていたときです。
いまにも消え入りそうな、か細い泣き声が私の耳に届きました。自分のすぐ横にある電柱のしたに、口から血を流した子犬が横たわっていたのです。苦しそうに呼吸をしながら手足をかすかにケイレンさせていましたが、まだ意識はあるみたいで、充血した目を私に向けてなにかを訴えているようでした。
察するに、この交差点を渡ろうとして車に跳ね飛ばされたのでしょう。この状態ではもう助かりそうもないと思いました。もしかしたら    普通は、子犬を抱きかかえ、すぐに動物病院へと運ぶべきなのかもしれませんが、そういうのって、どのくらいの費用がかかるのかわかりません。私は休職中だし、あまり貯金も残っていないし、それに、考えてみれば私は子犬が、いや犬そのものが、あまり好きではありません。もう助かりそうにない犬を動物病院に連れていって死を見届けるのと、いまこの場で死を見届けるのがどう違うのかもわかりません。そのうち誰かが通りかかって動物病院に連れていってくれるはずだ、そう思って周囲をみましたが、子犬にとっては運悪く、まわりには誰もいませんでした。ほんの少しだけれど、どうしようか考えていました。すると信号が青になりました。青になってしまっては仕方がないので、私は子犬に「お疲れさま」と別れの挨拶をしました。子犬はなぜか「おかあさん」と声をだしましたが、私は母親ではありません。事故のショックで混乱しているのだろうと、私はそのまま交差点を渡りました。
その夜からでした。自分の住んでいるマンション、部屋の窓から覗かれるようになったのは。リビング、寝室、お風呂、トイレ、ときにはベランダのガラス戸の端から無表情の子犬の顔が私をじっとみてきます。ゆうれいになったなら、自分を轢いた車の運転手のところにでるべきなのに。いまも、ほら、覗いています。やっぱり頭が悪いんですね、五、六歳の子犬って。だから好きになれないのですよ、犬が(笑)。

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10「最期の手紙」

親愛なるあなたへ

お久しぶりです。あなたに伝えたいことがあって、この手紙を書いています。
人生にはさまざまな困難や試練があり、ときには心が折れそうになることもあります。

私にとっては、あなたのこともそのひとつです。でも、私は諦めないと決めました。

私が目指している夢や目標は、簡単には手に入らないかもしれません。
しかし、努力を怠らなければ、どんな壁も乗り越えられると信じています。
私の中には燃えるような情熱があるのです。
どんなに厳しい状況でも、その炎を消さずに進んでいく覚悟を持っています。

私は自分自身に誓いました。
困難に直面しても決して諦めないこと。
失敗を恐れず学び続けること。
どんなに疲れ果てても、信じる道を歩き続けること。
その道が険しく感じるとき、思いだすのです。
私はひとりではありません。いつもまわりには支えてくれる家族の魂があり、その愛や励ましが、私の力になります。それを想うと、前を向いて進んでいくことができるのです。

どんなことがあっても、私は決して諦めません。強い意志と信念を胸に、未来を切り開いていきます。あなたには、夢を叶える力を持つ私のことを、信じて欲しいのです。私は必ず、あなたが私の家族の命を侮辱したように、あなたの幸せを叩き壊します。あの世に行っても、必ずやり遂げます。

楽しみに待っていてください。

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11「熱力学第二法則」

愛してる。これからもずっと。
やっと静かになってくれた。我慢させてごめんね。
でも、もう何も感じないよね、良かったね。

ふう、気持ち切りかえなきゃ。えっと、工具どこにあったかな。
どこからいこうかな。ど、こ、に、し、よ、う、か、な。
じゃあ、まずは頭からにしよう。なんか見られている感じするし。

やっと、切れた。意外と重いね、頭。
次は腕かあ。太いなあ。これ切るの大変じゃない?
よいしょ、よいしょ。筋肉かと思ったら、黄色い脂肪いっぱいね。
やっと切れたあ。なんか知らないけど断面、汚っ!

ああ、もう面倒くさくなってきた。なんでコイツこんな体デカいの?
でも、がんばらなきゃ。そこら中、血まみれ。次は、えっと胴体かな。
あれ? 思ったより柔らかくて簡単だわ、これ。
ああ、それでも手ぇ、疲れてきた。
臭ッ! 臓物臭ッ! おえッ、おええッ。

ふああ、たまらん。でも、あと一息。がんばろう!
最後、足をこうやって。ギコギコ。ギコギコ。

よし! やっと終わったあ、疲れたあ。
こうやって、ゴミ袋に入れて。よいしょ、よいしょ。
ちゃんと頭はいちばん上にしておこう。
これでもう大丈夫。明日は生ごみの日だし。
良かった、これで終了。せいせいしたあ。

なんか部屋が臭い。やっぱこういうのって耐えられんわ。
ああ、もういいや。ちょっと時間、早いけど。捨てにいーこうっと。

ぽい。

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12「エレベーター」 ※( )「」自由な発想で埋めてください。

ある夜、仕事を終えたサラリーマンの男性が、オフィスビルのエレベーターに乗り込みました。遅い時間で、ビルの中は誰もいなかったと思います。
エレベーターのドアが閉まり、男性は一階のボタンを押しました。

エレベーターは静かに下降していましたが、途中でガコンと音を立てて止まりました。
照明が消えて、薄暗い非常灯が点灯しました。
非常ボタンを押そうとしたそのとき、背後に気配を感じました。
振り返ると、エレベーターの隅に(   )が立っていました。
驚いている男性に(  )はこんなことをいいます。

「                」

男性は悲鳴をあげそうになりました。
次の瞬間、エレベーターが再び動き出し、一階に到着しました。
ドアが開くと男性は急いでエレベーターを降りて振り返り、エレベーターのなかを見ました。そこには誰もいなかったそうです。

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13「LOVE」※( )「」自由な発想で埋めてください。

ハッキリと伝えることができて嬉しいです。
私はあなたのことを愛しています。
どれくらい愛しているかというと(   )くらいです。
あなたのためなら(   )することもできます。
なぜなら私は(            )ですから。

だから私は夢のなかで、何度も何度もあなたを(  )しました。
あなたが血まみれになっても、あなたが嫌がっても止めませんでした。
あなたの骨を(  )して(  )したいんです。

そして今日。夢の内容が実行できた今日、私は最高に幸せな気分です。
ありがとうございます。

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14「キャンプ場」※( )「」自由な発想で埋めてください。

むかし、夏の終わりに友人たち四人のグループでキャンプ場にいったんです。
キャンプ場は自然がいっぱいで、湖があって、夜には満天の星空が広がるところでした。
到着してからすぐにテントを設置し、薪を集めて焚き火を始めました。
夕食を楽しみ、笑い声が絶えない夜が続きました。
夜が更けると、私たちは焚き火を囲んで怖い話をすることにしました。
友人のひとりが話し始めました。
「あのさ、このキャンプ場、昔から変な噂あってさ。そこの湖、ときどき(     )だって。でも実際(    )だし、警察が調べたこともあったらしいけど、何も見つからないんだって」
少し怖くなった私は「作り話だろ?」と笑いました。
話した友人は「そうだといいけどな」とだけいって、そのまま話は終わりました。

深夜になり、みんなは眠りにつきました。私もテントの中で眠りにつこうとしていたとき、外からかすかな声が聞こえてきました。耳を澄ますと、それは(  )のようでした。
「      」と聞こえてくる(  )に、私は恐怖を感じました。
友人たちがいるテントに声をかけてまわると、彼らも( )に気づいているようでした。
「あっちから聞こえてくる」と懐中電灯を持って湖のほうへ向かいました。
湖に近づくと、確かに( )が聞こえます。
水面は静かで、波一つ立っていませんでした。
突然ひとりが「あそこに何かいる」といって湖を指差しました。
懐中電灯を湖面に向けると、何かが動いているのが見えました。それは(    )ように見えました。恐怖に駆られた私たちは一目散にその場から逃げました。
テントに戻り、息を整えながら何を見たのか話しあいましたが、誰も答えを見つけることができませんでした。朝日で明るくなるまで全員が震えながら過ごしました。

翌朝、キャンプ場の管理人にその出来事を話しました。
管理人は真剣な表情で「               」と教えてくれました。

私たちはその話を聞いてさらに恐怖を感じ、急いでキャンプ場を後にしました。

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15「日記」※( )「」自由な発想で埋めてください。

とにかく、こんな陰惨な日記、いままで読んだことがありません。
進めていったら、可愛そうにという同情よりも怖さのほうが勝ってしまいました。
とくにこの日付のところ。

( )月( )日

(                              )

気持ちが悪いですよね。ホント意味がわからないでしょう。
でもこのページを見ると、こんなことが書かれているんです。

( )月( )日
(                             )

いったいどういうことなんですかね?
そして最期の日にちがこれですよ。

( )月( )日
(                             )

とにかく、この日記は念のために寺で供養してもらいます。よろしいですね?

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16「体験談」※( )「」自由な発想で埋めてください。もとの文章を大幅に改良してもOKです

私の友人の体験談です。
友人が(     )のころの話らしいのですが正確な(   )はわかりません。
当時、友人は(       )でした。

ある日のこと、友人は(           )ました。

いつものなら(        )ですが、そのときは(      )なんです。

(                )

私は友人からこの体験を聞いて、信じることができませんでした。
でも友人は(                    )。

これらは、どうも本当の話のようです。