マンスリーコンテスト 2024年7月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

8月の結果発表は都合により9月17日に行います。ご投稿の皆様はじめ、ご迷惑おかけいたしまして誠に申し訳ございません。重ねてお詫び申し上げます。

2024年7月結果発表

最恐賞
「夜半の冬に」影絵草子
「みだまめし」犬飼亀戸
佳作
「納涼花火」吉田六
「みんな忘れる」青葉入鹿
「ワケがわからない」おがぴー

「夜半の冬に」影絵草子

北関東在住の深町さんが幼い頃、ある真夜中に目を醒ました。

まただ。このところ、夜中の零時になると窓の外から(ぴぃひゃら♪)という笛やら太鼓やらのお囃子のような音が聴こえることがある。

寒い真冬の時期だし、祭りは決まって夏にしか行われない。
地域の小さな農業祭や収穫祭の類いでもない。
何だろうと思ってはいたが意図的に無視をしていた。
川の字に家族が寝ているが、いつもその音が鳴ると起きてしまう。
目を覚ますと決まって、窓から両親が外を眺めている光景をまるで絶景でも見るかのように見惚れているのだ。

「父母は何を見ているんだろう」

そう思いながらいつも自分は変なのと思いながらも羨ましくもあった。

そんな12月のクリスマス前の寒い夜、やはりお囃子の音に目を覚ます。
時刻は零時。
窓にぴたりと手をあて父母が窓の外を恍惚の表情で眺めている。

ただ、いつもとは少し勝手が違う。
心なしか少し音が近い気がする。

自分も今夜こそは父母と一緒に眺めよう。音の正体を確かめよう。そう思い窓に近づく。

そしてー。

そこまで話したところで深町さんは話をやめてしまう。

深町さん曰く、思い出せない。自分が一体何を見たのかわからない。むしろ思い出してはいけない気さえするとのこと。

肩透かしを食らったようにそうですか、と取材を終えようとすると、深町さんが鼻唄を歌うので、「それはなんの歌ですか?」と聞くと、「窓の向こうから聴こえていたお囃子の音だよ」と言う。

しかしその音は限りなくお囃子というよりもむしろ坊主の読経に近かった。

深町さんの両親、そして深町さん自身は何を見たのか。
我を忘れたように見惚れてしまうほど美しい景色が広がっていたのか。

思い出してはいけない気がすると言っていた深町さんの言葉を反芻しながら、その鼻唄を聴いた瞬間からただの不思議な話が急に不穏な空気を纏ったのは言うまでもない。

「みだまめし」犬飼亀戸

「私の郷里にはみだまめしという風習があります。収穫が終わったあとの祭り、豊穣祭というんでしょうか、私のところでは単に祭りというとそれのことでした。その晩は、箕(み)に大きな握り飯を三つ乗せて、田の神様に感謝して、神棚の下に置くのです。
私の子供の頃には、農村から工業の町に変わっていましたが、風習は残りました。ある年、火事があって我が家は経済的にとても苦しかったんですね。その年は、暮らしに本当にゆとりがなかった。それでも母は、祭りの日に、お供えなんだから作らないとだめだと祖母にきつく言われて、握り飯を拵えたんです。私はそれを見てひもじくて、”一つでいいから食べたい”と言って、母を困らせました。最初は神様のものだからだめだと言っていた母ですが、私がいつまでも諦めないのを見かねたのでしょうか、”ひもじい子供から横取りする神様なんて”と言って、一つ私にくれたのです。しまった、と思いました。本当にもらえると思わないから我儘を言ったのですから。それでも食べてしまいましたが…。母は残った握り飯二つを、中に蕎麦猪口を入れて大きさを誤魔化して三つに握り直しました。気の毒だったのは、その後死ぬまで”神様にあんなことをして、お前に罰があたるのでは”とずっと心配していたことです。家の状況が落ち着いてからは、母はこっそり握り飯を一つ余計に作って陰で供えていたくらいです。
私はその後、離れた町で役場の職員として働き始めました。驚いたのは、その町にもよく似た風習があったのです。そこでは箕ではなく蓑を使っていましたが、農具に握り飯を三つ乗せるという点では全く同じです。不思議な縁だと思いました。役場の庁舎の神棚にも握り飯を置くのですが、それを作るのは新人の役目でした。用意して神棚のところへ置いて、さて戻ろうと神棚に背中を向けた時、背後から、”心配するなと言っておけ”と声が聞こえたのです。驚いて振り向くと、さっき供えた握り飯が目に入りました。しかし数が…三つから二つに減っていたのです。そしてまた声がしました。”お前からもらっていく”と。
その年の暮れ、私は郷里に帰ってこのことを仏壇の母に報告しました。そして握り飯を仏壇に供えました。母のためにです。だって私がひもじかった時には、母だって空腹だったはずです。遅まきながらそう気づいたのです。」
(一九九〇年代 東北地方某所にて採話)

総評コメント

夏祭りも全国的に多いことから7月のお題は「祭り」。全体的に「死ぬ」「消える」系の派手な祭りが多かったのですが、それだけに信憑性を持たせるのは難しいチャレンジだったのではないかと思います。もちろん、都会や田舎に拘らず日本のどこかで人知れず恐ろしい祭りが行われていた可能性は十分にあり、その中には現在進行形で行われているものもあると思います。人が生贄に捧げられて死んだり、行方不明になったりしても、すべてが明るみに出てニュースにでるわけではないかもしれない。ネットで調べたぐらいでは引っ掛かりもしない秘密の祭りがあってもおかしくはありません。しかし、一般的にはホントかな……と思われても仕方ないのもまた事実です。ですから、嘘だぁ~と思いながらも、心のどこかで否定できない、ちょっと怖くなってる状態にさせられなければ勝ちですし、そうでなければ作品として負けているということです。これは相当ハードルが高いわけで、結果として派手さはないものの、そんな不思議なこと、奇っ怪なこともあるんだなと思わせる淡々とした作品のほうが選に残りやすかったように思います。
最恐賞はその中で2作、「夜半の冬に」影絵草子と「みだまめし」犬飼亀戸。前者は怪談らしい怖さ、不穏さ、永遠に解けぬ謎と無限の解釈を包含しており、広がり奥行きがある怪談でした。冬、クリスマス前とお囃子など取り合わせの違和感や、視覚と聴覚をくすぐってくるような面も良かったと思います。後者は、所謂「いい話」と呼ばれる怪談で、語り口も丁寧語――全編を台詞で表現しようという作者の狙い通りの作品。怪談作家さんでもこの一人称タイプの書き方を得意とする方は何人かすぐ浮かびますが、ネタを選ぶスタイルですので今回はそれが良くはまっていたと思います。素直に人と人、人と神、それぞれの情け深さが伝わってきてじんわりとしました。
佳作1作目は「納涼花火」吉田六。こちらは気づきが素晴らしく丁寧に描写された作品。音のずれという気づきから、邪魔してはいけないという心の動きも丁寧に見つめており好感がもてました。2作目「みんな忘れる」青葉入鹿は、記憶が消される系のひとつですが、異常なシチュエーションの中に妙なリアリティとおかしみがあり、なぜ自分なのかというラストの疑問もさらりとしつつも効いていると思います。3作目「ワケがわからない」おがぴーは、ライトな書き味、読み味ながらなかなかに凄いことが起こっており、一切不明の中にも絶妙なリアリティが感じられた作品で一読目から印象に残りました。これは体験者自体の肉付け(人間描写)にリアリティがあったからこその効果でしょう。
今回のようなお題で気になるのが字数配分です。誰も知らない祭り、儀式について説明するのにかなりの文字数を費やしている作品が多く、肝心の怪異がラスト200字くらいでようやく出てくるというパターンも非常に多かったと思います。祭りの異様さ、奇抜さで怖さを出すのではなく、あくまで「そこでどんな怪異が起きたか」をメインにもってこられるよう工夫する必要があります。
また、表現をブラッシュアップすれば字数を削れる(他の描写に字数を回せる)と思える文章がまだまだ多いです。例えばですが、【祭りの警備役である一人の男が「~」と声をかけてきた】というような文は、文脈から「祭りの」であることは自明なのでいらない、会話の口調で男であることは容易に示せるのであえて「男が」という必要もない、【警備役の一人が「~」と声をかけてきた】で済んでしまいます。そうした細かいところを5か所ぐらい詰めていくと、1文30字ぐらいはすぐに稼げるので、その分怖さを出したいところ、特殊な擬音を入れたいところなどに使うと完成度がぐっと高まります。
それでは引き続き、8月のお題「金属に纏わる怖い話」のご応募お待ちしております。皆さんの力作楽しみにしております!

●最終選考対象
「祭らない日」中村朔
「八百弥請許」かわしマン
「みんな忘れる」青葉入鹿
「ひと夏のワクワク」千稀
「もりやまさんがきませんように」月の砂漠
「納涼花火」吉田六
「夢に華に」筆者
「夜半の冬に」影絵草子
「みだまめし」犬飼亀戸

●二次選考通過
「祭囃子」ホームタウン
「ワケがわからない」おがぴー
「祭らない日」中村朔
「八百弥請許」かわしマン
「みんな忘れる」青葉入鹿
「神様の嫉妬心」夕暮怪雨
「ひと夏のワクワク」千稀
「デブパンパン」唎酒師のカズ
「もりやまさんがきませんように」月の砂漠
「納涼花火」吉田六
「夢に華に」筆者
「夜半の冬に」影絵草子
「みだまめし」犬飼亀戸
「吊り提灯」影絵草子

●一次選考通過
「祭囃子」ホームタウン
「ギンギラギン」おがぴー
「祭りのあとに」黒川錠
「ワケがわからない」おがぴー
「祭らない日」中村朔
「八百弥請許」かわしマン
「みんな忘れる」青葉入鹿
「神様の嫉妬心」夕暮怪雨
「輿の中」秋司
「スコールの浜」千稀
「ひと夏のワクワク」千稀
「臆病者」千稀
「デブパンパン」唎酒師のカズ
「もりやまさんがきませんように」月の砂漠
「納涼花火」吉田六
「蝶々の浴衣」薊 桜蓮
「祭好きは誰?」L・美炎徒
「夢に華に」筆者
「屋台の裏で」雨森れに
「面婚」雨水秀水
「夜半の冬に」影絵草子
「仮装祭り」碧絃
「みだまめし」犬飼亀戸
「的(まと)」恣
「吊り提灯」影絵草子
「ヘフミア」御家時
「夜祭り」橘まるに

現在募集中のコンテスト

【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話

締切 2024年11月30日24時
結果発表 2024年12月16日
最恐賞 1名
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優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp