マンスリーコンテスト 2024年8月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2024年8月結果発表

最恐賞
「当事者か傍観者」千稀
「音が聞こえる」月の砂漠
佳作
「ミチガミトシヤ」ホームタウン
「山の積銭」小祝うづく
「別れの夜」佐藤健

当事者傍観」千稀

今は一児の父であるYさんが小学生の頃体験した話。

「歩道に柵があるだろう。スチールとステンレスで作られた格子タイプのやつ。学校帰りによくあれを枝と傘とで叩きながら家に帰っていたんだ。歩くスピードに合わせてカカカって鳴るのが楽しくてさ」

毎日のように繰り返しているうち、妙なことに気がついたという。

「カカカッ、ッカカみたいな感じで、必ずリズムが崩れる歩道があるんだ。他の柵と変わったところはないんだけれど、そこでは必ずリズムが崩れてしまうもんだら」

不快に思ったYさんは柵を一本一本叩いて音を鳴らし確認していったのだという。

「カアァンって音が鳴っていくんだけど一部の柵だけが変なんだ」

見た目も特に他の柵と変わりはない。ししそこの数本だけはどれだけ叩いても音が鳴らないのである。

「まるでゴムを叩いているような感じだった」

苛立ちを感じたYさんはひたすらに柵を叩き続けた。

「途中で気がついたんだけど」

叩くたび、金属音ではない妙な音が聞こえる。
──グッ、グッ
それは重苦しく漏れるような男性の声に聞こえた。

「気持ち悪くなってそのまま逃げ帰ったんだ」

翌朝登校したYさんは、先生数名と両親がいる部屋へ呼び出された
なにやらYさんについて匿名の男性ら学校へ通報があり、それについての事実確認をするのだという。

「担任の先生が深刻な顔をして言うんだ。昨日の放課後何してたって」

通報の内容は、Yさんが歩道で人に暴行を加えていたというものあった。

「当然そんなことをするわけないし、否定したよ。色々不審な点があって先生たちもこの男性らの通報について怪しんでいたんだ。でもあまりに場所や状況説明が鮮明だし、子供の特徴との説明が確実に俺のことを言っていたみたいでさ。念の為確認することにしたらしい」

ひとしきり聞き取りをされた後、その日は両親と帰宅することになった。
両親らこんな通報をされる心当たりはあると聞れ、柵を叩きまくっていたことを思い出したのだが口にはしなった。

「そのときに思ったんだけど柵の音が鳴らなったのって、俺が叩いていたあれが『柵』じゃなったらなのなって」

翌日、その柵を叩いてみると、
──カアアァン!
と突き抜けるような気持ちの良い音が鳴り響いたという。

「音が聞こえる」月の砂漠

レイカさんがまだ小学生だった頃、クラスで貝殻集めが流行ったことがあった。九州の海沿いの町での話だ。
アサリにキサゴ、トリガイ、シロガイ、クジャクガイといったあたりが一般的で、この地域でしか取れないハイガイや、虹色に光るアコヤガイは特に人気が高かった。
拾って来た貝殻を箱にぎっしりと詰めて見せびらかす友人もいたが、そういう子は「成金」と陰口を叩かれていた。
コレクションの中から厳選したいくつかだけを持ち歩き、その貝殻を耳に当ててを聞くのがオシャレな振る舞いとされていたのだ。
「この貝、クジラの鳴き声が聞こえるよ」
「こっちの貝は、波の聞こえる
そんなことを言い合って、楽しんでいたという。

ある日、レイカさんは新しい貝殻を探しに浜辺へ散策に出た。
みんなと同じようなものじゃつまらない。めずらしくて、誰も知らない貝殻はないか。
一人で夢中になって探していると、浅瀬から突き出た岩の側で、銀色に光る貝殻を見つけた。レイカさんは靴が濡れるのも構わず、海中へと歩を進めた。
ところが、拾い上げたそれは貝殻ではなく、金属片だった。
これが鉄なのか銅なのか、あるいは別の種類なのか、小学生のレイカさんにはわからなかったが、その手触りから金属であることはたしかだった。
金属片は扇型で丸みを帯びていた。ところどころに傷はあるものの、美しい銀色に輝いている。
レイカさんは、試しにその金属片を耳に当ててみた。
「ゴォォォ、ゴォォォ……」
燃え盛る炎のようなが聞こえたという。
これはこれでめずらしいなと思い、レイカさんはその金属片を持って学校へ向かった。

教室に着くと、親しい友人にそれを見せた。
友人は「これは貝殻じゃなかとよ」と笑っていたが、レイカさんは「めずらしいがするけん、聞いてみて」と言って、それを友人の耳元に当てた。
友人は目をつぶってを聞いていたが、しばらくすると、キャーッと悲鳴を上げてしゃがみこんだ。
「あんた、どげんしたと?」
「爆発が聞こえたけん。ドカーンって、すごい
そう言って友人は顔をしかめる。レイカさんは困惑しながら、金属片を自分の耳に近付けた。その直後、
「たすけてくれ、たすけてくれぇ!」
悲痛な叫び声が、レイカさんの耳の奥に響いて来たという。
放課後、レイカさんはすぐに浜辺へ行き、金属片を海に投げ捨てた
結局、あれが何だったのか、いまでもまったくわからないそうだ。

総評コメント

8月のお題は「金属」。鉱山関連、工場の機械、硬貨、刀、金属アレルギー、金属バットに纏わる話が多め、また終戦記念日の月であり、戦争を振り返る番組や特集が組まれる季節ですが、くしくもその戦争に纏わる怪異もいくつか集まりました。今回は全体的にはテーマの難しさか一次選考の時点でかなり絞られましたが、最終選考にはどれも捨てがたい作品が揃い、大変悩みました。評価のポイントとして、「レア度(珍しい、あまり聞いたことがない)」「記憶または心に何かを残しているか(余韻ふくむ)」を重視しつつ、構成の巧みさであったり表現のうまさであったりを加味いたしましたが、おそらく読み手によって評価は変わるのではないかと思います。それぞれに良さがあったということを最初にお伝えしておきたいと思います。
その上で8月は怪談の日でもありますから、2作を最恐賞に選出いたします。1作目は「当事者か傍観者」(千稀)。不可解さと不気味さに思考もろとも捩れるような感覚に襲われるなか、抜けるようなラストが鮮烈な印象を与える作品。金属と肉の対比もぞわぞわとした不穏さを醸しています。2作目は「音が聞こえる」(月の砂漠)。こちらは戦争を思わせる怪異ですがあまり推測を挟むことなく、事実のみを淡々と綴るスタイルがこのテーマを繊細に扱っており、様々な情景が目に浮かぶ作品であったと思います。仮に台詞が「万歳」であったらまた違う景色が見えたでしょうし、色々な広がりも感じます。
佳作1作目には「ミチガミトシヤ」(ホームタウン)。レア度が非常に高いながらも嘘っぽくならない絶妙な味わいで、こちらはそのまま今月の名前に纏わる怖い話に持ち越していただきる作品かと思いますので、ここでは多くを語りません。2作目は「山の積銭」(小祝うづく)。神に取られる系統の話で、周囲の人間の記憶から特定の人物の存在が消されるタイプの話は類話が多いものの、原始的な怖さがそこにあり、今回の応募作の中でも恐怖という点で抜きんでいた作品です。3作目「別れの夜」(佐藤健)。こちらは工場の閉鎖に伴う機械たちの叫びを記録した作品で、道具にいわくつきのものが多いように、長い間人間とともに歩み、働いていた機械というものにも魂が宿るということを自然に納得させられる作品でした。聞く者によって、その叫びは怨みにも哀惜にも捉えられる、その音色を決めるのはあくまで人間であることも興味深いと思います。
今回のお題はやや特殊な金属ですが、お題に合わせて創作されている方がまだまだ多く、そこはいつもながら残念に思います。人間の発想力というのは不思議と似通るもので、創作ほど同じようなオチになっています。そもそも語り手が殺られる間際でブラックアウトするところで終わるのは創作確定となりますので、ご注意ください。
と、ここまでは半分愚痴のようなものですが、それとは別に今回、鉱毒系、鉱山事故系のお話もたくさんお寄せいただきました。とくに鉱毒系に関しましては被害者の方、ご遺族の方などの心情を慮ると簡単な思いでは書くことのできない非常にデリケートな問題です。戦争ももちろんそうなのですが、それ以上に場所や地域の特定にもつながります。怪談が人の死を取り扱う以上、不快な思いをする方がいらっしゃらないか、だれかを傷つけることになっていないか、いま一度熟慮いただけましたら幸いです。我々編集部への自戒としても、一言ここで添えさせていただきました。
最後に表現について。金属というお題も相まって、触れた時の硬さ、冷たさ(或いは熱さ)、見た時の鈍い光、ぴかぴかなどの擬音、叩いた時の音など、五感に訴える表現が多く見受けられましたが、作品の中で何度か同じ言葉、例えば「冷たい」が出てくる場合、それは同じ「冷たさ」でしょうか。文章校正の中に表記の統一というものがあり、基本ひとつの作品や、ひとつの本(アンソロジー除く)の場合は、漢字かひらがなかどちらかに統一するのが一般的なルールです。「いわゆる」と「所謂」は混在しないようにどちらかに揃えるといったことです。これは基本同じ用途、同じ意味を使用されているから統一されているとも言えます。表現で「冷たい」と表現する時はどうか。冷たいジュースを飲んだ、ドアノブを掴むと冷たかった、母の遺体はもう冷たくなっていた、同じ冷たいでもまったく感触は異なるはずですが、ひとまず他にぴったりとした表現がないので「冷たい」とすることは多いと思います。ただ、ここぞという時の怪異で使用する場合は、本当にその「冷たい」でよいのか、他の「冷たい」と同じ表現でいいのか一考することをお勧めします。簡単な形容詞ほど1000字の中でも多用してしまいがちです。言葉を大切に使う、選ぶと、作品はまたひとつ変わってきます。来月もご応募楽しみにお待ちしております!

●最終選考対象
「山の積銭」小祝うづく
「ミチガミトシヤ」ホームタウン
「当事者か傍観者」千稀
「ドアノブ」天堂朱雀
「別れの夜」佐藤健
「深夜の公園駐車場」筆者
「音が聞こえる」月の砂漠

●二次選考通過
「金山」清田睦月
「山の積銭」小祝うづく
「ミチガミトシヤ」ホームタウン
「肝試し」雨森れに
「当事者か傍観者」千稀
「ドアノブ」天堂朱雀
「別れの夜」佐藤健
「ブリキのバス」鬼志仁
「降ってくる」中村朔
「深夜の公園駐車場」筆者
「バッカンの中身」夕暮怪雨
「怨念の炎」花園メアリー
「音が聞こえる」月の砂漠

●一次選考通過
「金山」清田睦月
「山の積銭」小祝うづく
「榊の妻の指輪」Tempp
「ミチガミトシヤ」ホームタウン
「銭仙大人」杜 志成
「肝試し」雨森れに
「当事者か傍観者」千稀
「ドアノブ」天堂朱雀
「別れの夜」佐藤健
「ブリキのバス」鬼志仁
「降ってくる」中村朔
「赤いマニキュア」黒川錠
「深夜の公園駐車場」筆者
「バッカンの中身」夕暮怪雨
「匙を曲げる」芥モクタ
「河内守國助の錯乱」乙日
「怨念の炎」花園メアリー
「音が聞こえる」月の砂漠
「身から出た錆」宿屋ヒルベルト
「血まみれの金属バット」月の砂漠
「消えた包丁」泥人形
「ハリガネムシ」のっぺらぼう
「長谷川の呪い」でんこうさん
「解体のための事前調査」唎酒師のカズ
「鈴の音」飯田ごはん
「室町時代の懐剣」藤 祥子
「山師の家系」御家時
「真夜中の金属音」天咲 琴葉

現在募集中のコンテスト

【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話

締切 2024年11月30日24時
結果発表 2024年12月16日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp