竹書房怪談文庫TOPマンスリーコンテスト2020年2月結果発表
マンスリーコンテスト 2020年2月結果発表
怪談マンスリーコンテスト
ー 怪談最恐戦投稿部門 ー
2020年2月結果発表
- 最恐賞
- 「強制フルコース」菊池菊千代
- 佳作
- 「さがしもの」みけとーちゃん
「蜜柑」雪鳴月彦
「食感」二代目朧豆腐
「強制フルコース」菊池菊千代
浩輔さんは中学時代、テルキさんという同級生を集団でいじめていた。
「デブで内気で……モゴモゴ何言ってるか分かんねぇ奴でした」
たくさん酷い事をしたという。暴力やパシリはもちろん、横断歩道で信号待ちする姿を見かければ車道に突き飛ばした。
「なかでもヤバイのは……」
各々持ち寄った何かを食べさせる〈強制フルコース〉だという。
体育館裏で正座するテルキさんへ、友人Aが何かを差し出す。そして高級店のウェイターの様な上品な口調で
「前菜の〈その辺の雑草〉です。ドレッシングとして雑巾の絞り汁をかけております」
「うっわ!キツ!」
場が盛り上がる。
拒否すればどうなるか分かっているテルキさんは黙って口に運ぶ。
続いて浩輔さんが、
「メインディッシュの給食の余りの焼き魚です」
テルキさんだけ魚類が出る日は代替品が出る為に、彼は魚アレルギーとして有名だった。歓声が上がる中、完食。
「明日ブツブツできるの楽しみだな!」Aが笑った。
最後に友人Bが、
「スイーツです」
白い物を渡し、学校前の交差点を手で差す。
「あちらにあったお供え物の大福です」
「マジか!」一同が沸く。
そこでは前年〈カワムラアサミ〉という女学生が交通事故で亡くなっていた。
大福を一口。
途端、テルキさんの顔が赤らむ。
「うぉうぉうぉうぉ」
足を正座の形に保ったまま、上半身を後ろにのけぞらせた。
そして、まるで背泳ぎのように腕を下から上へ持ち上げて降ろす。
数秒ののち、彼は勢いよく立ち上がると、言葉を失う集団を横目に真顔で立ち去った。
翌朝、彼は化粧をして登校してきた。
「テルコです!ヨロシクぅ~」
湧く教室。彼は一日でいじめられっ子から人気者へと変わったという。
「俺らも手を出しにくくなったというか……」
近寄りがたかった。
給食の際、彼が余った魚をおかわりする姿を見て、一同は恐怖を覚えた。
「話すと確かに〈テルキの時〉もあるんだけど……半分は別人でした」
代表して友人Aが行動に出た。
廊下を歩くテルキさんの後ろから声をかける。
「アサミさん!」
一瞬、硬直。
……が、歩き直して立ち去った。
翌朝の朝礼で、Aが亡くなったと知らされた。
信号待ちの間、まるで背中を押されたかの様に車道へ飛び出し、大型車に轢かれたらしい。
犯人は捕まっていない。
それから十余年。
現在、テルキさんは〈アサミ〉という源氏名で地元のバーで働いている。
「いまだにトラウマっすね」
浩輔さんは信号待ちの際、先頭には立たない様にしている。
総評コメント
今月のお題は「食べ物」。素材そのものから、料理、菓子、得体の知れない食材まで様々な食怪談が集まりました。中でも、果物と菓子に纏わる話が多かったでしょうか。
最恐賞「強制フルコース」(菊池菊千代)は、いじめで食べさせた“ある物”から始まる恐怖譚。意外性に富んだ展開に引き込まれました。佳作は戦時の食糧不足だった頃の切ない幽霊譚「さがしもの」(ミケとーちゃん)、生霊か思念か、母と息子の不思議な奇譚「蜜柑」(雪成月彦)、ある地方の変わった葬儀の風習に纏わる怪異譚「食感」(二代目朧豆腐)の3作を選出。いずれも文体に安定感があり、それぞれ独自の持ち味が光る作品でした。
最終候補作品には、「ひとでなし」(井川林檎)、「お菓子の正体」(渡戸章五)、「無益な殺生」(狼少年源)、「特別な配給品」(鬼志仁)、「センゾウッ!」(卯ちり)、「おはぎ」(おがぴー)の6作品が残りました。リアリティは高いのだけれど怖さがやや弱い、怖いのだけれど、少々できすぎている――そのどちらかの作品が多く、両者のバランスが選考のカギとなりました。
また、今回は食べ物ということで「旬」のある素材が扱われる話が多かったのですが、どうもそれがお話の季節と合っていない作品がいくつも見受けられました。せっかくのお話もそうした隙を作ってしまうと、実話としての信憑性・信頼性が揺らぐことになりますから、十分に配慮していただきたいと思います。
大抵のお話は、取材した時点ではおおまかなあらすじ、事実の羅列になると思います。例えば、「夏に、友人同士で山奥の廃墟に肝試しに行き、怖い体験をした」という話を聞いた場合、どれだけ怖かったかというのが話の焦点で、体験者も細かいところまでは語れない(覚えていない)場合が多いことでしょう。それを実話怪談として書き起こす際に、書き手はいかに読者をその話の舞台に引っ張り込むか――リアルに想像させるかということに工夫をこらさねばなりません。そこで想像力を働かせ、夏の山の空気はどんな匂いかな、夜空の様子はどうだったかな……と想像による描写を加えて、これから起こる事件の舞台を整える作業が必要になってきます。その上で、取材した実話をできるだけリアルに再現していくことで、読者に恐怖の追体験をさせることができるわけです。この舞台づくりの段階で、「なんとなく怖そうな、いい感じの雰囲気」を適当に作ってしまっている作品が目立ちます。深夜丑三つ時のはずなのに、「漆黒の夜空に赤い満月がゆっくりと上ってきた」と書いてしまったら、それは嘘になってしまいます。満月の南中時刻からしてあり得ないからです。春の話なのに「咲き乱れる彼岸花がゆるりと風に揺れて」しまったり、夏に「黄昏空を、雁の群れが何かに追い立てられるように飛んで」いってはいけないのです。雰囲気を優先して適当に盛り上げてしまうと、せっかくのお話まで嘘っぽくなってしまうので十分に注意してください。
さて、次回のお題は「卒業」に纏わる怖い話。学校の卒業式のみならず、悪癖からの卒業、トラウマからの卒業、精神的なあらゆる面での卒業も考えられるかと思います。皆様の卒業怪談、楽しみにお待ちしております!
現在募集中のコンテスト
【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話
締切 | 2024年11月30日24時 | |
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結果発表 | 2024年12月16日 | |
最恐賞 | 1名 Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス |
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優秀賞 | 3名 竹書房怪談文庫新刊3冊セット |
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