マンスリーコンテスト 2018年9月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2018年9月結果発表

最恐賞
継母春南 灯
佳作
「上に伸びる」鳴崎朝寝
「ロッキン・グランパ」松本エムザ
「選択」T・K

「継母」春南 灯

 父の葬儀を終えて帰宅した翌朝、陽子さんの元へ宅配便が届いた。
 差出人は、継母。
 二十年ほど前、就職のため実家を離れた直後、母を自死に追いやり、初七日に実家へ入り込んできた女だ。
 品名には、遺品と記されている。
 不快だが、一応、中を検めなければ。
 止む無く、べったりと貼られたガムテープを剥がした。
 箱を開くと、見覚えのある古い桐箱と、その周囲に、父のものであろう薄汚れたネクタイが雑に丸めて詰められていた。
 桐箱の中身は、曾祖母が嫁入りの際、生家から持たされた茶器が入っていたように記憶している。うろ覚えだが、陽子さんが小学生の頃、専門家の鑑定で江戸時代のものであることが判明し、高額の査定がついたと、今は亡き祖父母が喜んでいた。

 箱を前に、沸々と怒りがこみ上げてきた。
 あの女が触れたものなど、手元に置きたくない。
 売ってしまおう、そう思い立った。

 とりあえず、中の状態を確認しようと、蓋に手をかけたが固くて開かない。箱を壊してしまっては価値が下がると聞いたことがあった為、そのまま箱を携えて近所の商店街にある骨董品店へ向かった。

 店に入ると、カウンターの横に三十代位の男性が座っていた。
 蓋が開かない旨を伝え、査定を依頼すると、陽子さんは、勧められた椅子に腰掛け、スマホに視線を落とした。
 カコン、と木の音が店内に響いた直後、男性が小さな悲鳴をあげた。
 面をあげると、木箱の蓋を持ったまま立ち尽くしている。

「これ……無理です……」

 震える声で呟くと、陽子さんへ木箱を差し出した。
 箱の中を覗きこむと、茶器ではなく白っぽい欠片がぎっしりと詰められている。

「これ……骨、ですよね……」

 男性が呟いた瞬間、

「ようこ……ようこ……」

 女性の声が聞こえた。
 店内を見回したが、他に誰もいない。

 ――もしかして

 すぐさま、菩提寺へ納骨堂の確認を依頼すると、母の骨箱が無いとの報せがあった。
 事情を話し、継母にはもう関わりたくない旨を伝えると、住職が空いていた納骨堂と骨箱を用意してくれて、その日のうちに遺骨を納めた。
 骨箱を前に手を合わせていると、ことり、小さな音がして、再び、陽子さんを呼ぶ懐かしい声が聴こえたそうだ。

 継母は半年後、実家の裏庭で自ら命を絶ったという。
 陽子さんの母と、同じ方法で。

総評コメント

 第6回のお題は「骨董品」に纏わる怖い話。古くから家に伝わるお宝、遺品絡みの作品が数多く集まりました。最恐賞は、人間の業と因果を色濃く滲ませながらも、簡潔に怪を綴ることで余韻を残した「継母」。佳作には、美容室に期間限定で飾られた掛け軸に纏わる忌話「上に伸びる」、大のフットボールファンだった祖父が愛用していた椅子に纏わる海外奇譚「ロッキン・グランパ」、古くから伝わる般若の面の怪奇譚「選択」の3本が選ばれました。いずれも恐怖だけではない+αの味わい(物悲しさや温かみ、或いは狐につままれたような不可思議な感覚など)があった点が一歩抜きんでいたと思います。逆に+αの部分は十分ながら、肝心の怪異(恐怖)の部分が弱すぎる場合も多く、やはり怪談としての本質をしっかり押さえた上で、書き手の個性を+αの部分で見せていただけると、数多くの投稿作の中でも強い印象を残せることと思います。その他、最終選考には人斬り刀に纏わる怪談「刀二振り」、アンティークカメラを扱った「100年前の未現像フィルム」、娘が語る不穏な過去の記憶「父の愛した着物」が残りました。今回、せっかくの力作も制限字数を大幅にこえてしまっている場合があり、残念に思います。限られた字数で表現する力量も審査の重要項目ですので、今後もその点を踏まえて投稿していただければ幸いです。
 次回は「山・川」に纏わる怖い話。どちらか一方でも、両方でも構いません。力作をお待ちしております。

現在募集中のコンテスト

【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話

締切 2024年11月30日24時
結果発表 2024年12月16日
最恐賞 1名
Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス
優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp