竹書房怪談文庫TOPマンスリーコンテスト2020年6月結果発表
マンスリーコンテスト 2020年6月結果発表
怪談マンスリーコンテスト
ー 怪談最恐戦投稿部門 ー
2020年6月結果発表
- 最恐賞
- 「泥人形」影絵草子
- 佳作
- 「おとりかえ」松本エムザ
「ザリガニバケツ」大坂秋知
「虫の声」日高屋四郎
「泥人形」影絵草子
谷君という方に聞いた話。
同級生に、ここでは四谷とするが、変わったやつがいた。
いつも誰とつるむでもなく、一人でいるようなやつだった。
谷君はそれを不憫に思い、ある日、四谷に話しかけてみた。
話してみるとなかなか面白いやつで、谷君の知らないことをたくさん知っている。
たとえばキノコや山菜のとれる場所。
駄菓子の当たりを見分ける方法。
趣向を凝らした悪戯。
ある日、四谷は面白いものを見せると言い、彼を連れて神社の裏手にある雑木林にやって来た。
「あそこ」
四谷の指さすところを見ると、サークルのような陣が地面に描いてある。
なんだろうと思っていると、「見ててみな」と言って、指をパチンと弾いてみせる。
すると驚いた。
昨日の雨でぬかるんだ地面から、泥の塊が少しずつ集まってきて人の形を成したかと思うと、ぴょこぴょこと歩く。
でもあまり持たない。
泥の人形は数分歩くとすぐに元の泥に戻ってしまった。
それから、度々その場所を訪れたが、ある日、四谷が「内緒だよ」といって囁いた。
「服の中のお腹に手を当ててごらん」
谷君は言われた通り、シャツの下に手を入れてみた。
と、ズボッと入れた手が奥深くまで突き抜ける。
それは、まさに泥の感触。
潮干狩りで泥に手を突っ込むとあんな感触がする。
それに似ている。
手を引っ込め、まじまじと己の掌を見るが、泥などついていない。
服をめくっても普通の人間のお腹。
不思議そうに見ていると、どこか悲しそうに「またね」と言って帰ってしまった。
翌日、学校に行くと、仕事の都合で転校するため、四谷の両親が挨拶に来ていた。
が、当の四谷はおらず、なぜかお父さんが水槽を持っていた。
虚ろな目で校舎を出ていく時、ちらりと見えた水槽の中に泥の塊が見え、
それが、少し、動いた気がした。
あれはきっと四谷だったに違いない。
少なくとも谷君はそう信じている。
小学四年の夏のことだった。
総評コメント
6月のお題は「ペット」に纏わる怖い話。「ペット」から広い意味での「愛玩」「飼育」をテーマにしたものまで、興味深い作品が集まりました。扱う生き物の種別ごとに統計を取ってみましたところ、1位が犬、2位が猫と、どちらが上かは別として予想通りの結果となりました。注目の第3位は、鋭い方は予想されたかもしれませんが「得体の知れない生き物」です。中でも、飼い主には普通の動物に見えているが、第三者が見ると異様なものであるパターンが最多。面白いのは、水槽や池の中など水生の異形が多かった点でしょうか。統計に不思議なリアリティを感じました。以降、4位が昆虫、5位がハムスター、6位に人間と続き、あとは様々なペットが横並びに数作ずつという結果です。意外と鳥類が少なかったように思います。
最恐賞は影絵草子の「泥人形」。家で飼う生き物という一般的なペットの概念には当たりませんが、神社の裏で飼っているとも取れる泥人形と、水槽というアイテムを出すことでお題をクリアしてきました。非現実的な話ですが、細部に妙なリアリティがあり、強い印象を残しました。表現に潮干狩りを使った点が生々しく、比喩として効いていたと思います。
佳作1点目、松本エムザの「おとりかえ」は、母に疎まれて育った姉妹の姉が、母の死後になぜ自分だけがそうした扱いを受けたのかを妹から聞くお話。そこにペットが絡んでくるのですが、ぞくっとくるセリフや巧みな展開に、引き込まれました。
2点目、大坂秋知「ザリガニバケツ」も異色。釣ってきたザリガニを世話せず死なせてしまった少年時代の思い出から、予想外の結末(怪異)に邂逅する運びが面白い作品でした。情景が目に浮かぶ映像的なインパクトもあります。黄色いバケツとか、縁が欠けているとか、バケツを特定する描写をされるとさらに良かったかなと思いました。
3点目は、日高屋四郎「虫の声」。虫を飼い、虫と話をする少年の話ですが、シンプルなストーリーと表現の中に、素朴な恐ろしさが光りました。良い意味で分かりやすい怪談と言え、少し捻った展開の投稿作が多い中、逆に目立つ結果となりました。
今回、第3位が「得体の知れない生き物」でありましたが、非現実的な話をリアリティをもって伝えるのは非常に難しいことです。しかし、実話であることを証明するのが不可能なのと同じように、実話でないこともまた証明できません。無論、語り手が最後に死ぬなど明らかに創作だとわかる描写があれば別ですが、どんなに荒唐無稽な話であっても完全否定することもまた不可能だと思います。本当かもしれないと思わせる「何か」が作品にあれば、それはすべての読者とは言わずとも、ある一定の読者には実話怪談として受け入れられます。「何か」とは何か。実際にその目で見たとしかいいようのないリアルな描写なのか。或いは、体験者の生々しい心情なのか。それもまた受け手・読み手によって異なってくるはずですが、ひとつは「信じたいと思えるか」どうかだと思います。あえて踏み込んで言えば、騙されてもいいと思えるか。それはお話を読んだ時の満足度、胸にくるものがあるかどうかにかかってくると思います。
マンスリーコンテストは、改めて言及するまでもなく、実話怪談のコンテストです。ご自身、または誰かから聞いた本当にあった怖い話を求めています。体験者から話を聞いた時に、書き手自身も「この人は嘘をついてないな、本当なんだな」と思えなければ、作品に真実味を持たせることは難しいでしょう。ですから、本物だと思った話を、証明することはできないけれど、どうしたら読者に信じてもらえるだろうかという意識を常にもって、自分なりの工夫(誠意)を見せてほしいと思います。一見、実のない精神論のようですが、そうしたものが作品に滲むと作品は本物になります。
マンスリーコンテストの選考は、投稿者名は見ずに、作品本文のみを全作品拝見し、特に強く印象(記憶)に残った作品を書き出していきます。この時点で50作品ぐらいに絞られます。次にタイトルだけを見て、どのような話だったかすぐに思い出せるかどうかを見ます。最後にもう一度一話一話、描写など細かい部分を見ます。応募点数に制限はありませんので、もしテーマに合う作品が複数書けた場合は、ぜひ何作でも投稿してみてください。数打てば当たるというものでもありませんが、思いがけない作品が評価されるなど、発見があるかもしれません。
さて、次回のお題は「夏に纏わる怖い話」。怪談と言えば夏、お盆もあり霊との距離がぐっと近くなる季節です。かなり広いテーマですので、どなたでも参加しやすい回となるのではないでしょうか。たくさんのご応募をお待ちしております。
※なお今月の最終選考に残りました作品は、「首轢き十字」ラグト、「ウチの猫、探しています」菊池菊千代、「人面犬」イシザキまこと、「ドアの前で待つもの」ミケとーちゃん、「違和感」雪鳴月彦、「首輪の裏」相良但馬守十郎猫頼、「ヒトミ」川谷心臓、「宇宙ブナ」獅子九朗、「紅丸」犬鳴ゆり、「ヨンの歯牙」藤井博之となります。以上、投稿日時順。(2020/7/8追記)
現在募集中のコンテスト
【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話
締切 | 2024年11月30日24時 | |
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結果発表 | 2024年12月16日 | |
最恐賞 | 1名 Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス |
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優秀賞 | 3名 竹書房怪談文庫新刊3冊セット |
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応募方法 | 下記「応募フォーム」にて受け付けます。 フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム | お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp |