竹書房怪談文庫TOPマンスリーコンテスト2020年12月結果発表
マンスリーコンテスト 2020年12月結果発表
怪談マンスリーコンテスト
ー 怪談最恐戦投稿部門 ー
2020年12月結果発表
- 最恐賞
- 「百鬼夜行を描く。」音隣宗二
- 佳作
- 「雪の日」芳春
「鬼石」soo
「笑い家族」成瀬川鳴神
- 優秀作
- 「鬼が嗤う」影絵草子
「色鬼の思い出」緒音百
「百鬼夜行を描く。」音隣宗二
小学四年生の夏休み、Mさんは友達3人と共同で自由研究をしていた。
題材は百鬼夜行。4人で模写をしてオリジナルの絵巻を作ろうという内容だった。
「ウチにあるよ」参加しているYさんが言った。
彼女の家は地元の土地持ちで、同居している祖父は骨董や美術品の収集が趣味だった。
後日おじいさんが快諾したという連絡を受け、Yさんの家を訪ねた。
由美さんの祖父が持ってきた木箱の蓋を開けると、一本の巻物が入っている。
「じゃあ頑張ってな」おじいさんは笑顔でそう言って部屋から出て行った。
初めて手に取る巻物は、独特の重みがあった。
広げてみると、列をなした妖怪たちがズラズラと並んでいる。
それぞれ担当を分けて画用紙に妖怪を描いていくが、1日で終わる作業では無い。
それからもYさんの家に4人で集まり作業を進めた。
ようやく終わりが見えてきた8月のある日、集中し過ぎたゆえに視野が狭くなっていた。Mさんの肘に何か当たる感覚と、コンという音が聞こえた。見るとコップからジュースが流れ、絵巻にジワジワとシミが広がっていく。
他の3人も気がつき、急いで絵巻を持ち上げた時だった。
ベリ! という音と共に、巻物から紙が少し伸びた。
芯に巻いてあるだけと思っていた紙が剥がれたのだ。
そして出現した紙には鬼が一体、描かれていた。
灰色の体。赤い角が頭から背中に生え、体を黒いモヤが覆っている。
背中にゾクゾクとした感覚が走った。そして思った。
――――この鬼を描きたい、と。
「これは私が描く」友達が突然そう宣言した。
「だめ。」瞬間的に、Mさんは言葉を遮った。
「何言ってるの。ウチが描く」
「これはウチの物だから、私に決まってるじゃん」
それを皮切りに、黒い鬼を誰が描くかで、壮絶な喧嘩が始まった。
取っ組み合いになり、Mさんは友人の体に爪を立て、自身も顔を殴られた。
“他の奴には絶対に渡さない”という感情が頭の中で渦巻いた。
「何やってるんだ!!」
その声に一瞬だけ気を取られると、頭を支配していた感情は既に消え失せていた。
開いた襖からYさんのおじいさんが、顔を出している。
生傷だらけの4人から話を聞くと、お爺さんが濡れた巻物を持ち上げた。
「どこに鬼がおるんだ」
そこにはジュースで濡れた空白があるだけで、何も描かれていない。
「そんな……」
そう思った時。バチン!!と強烈な家鳴りが部屋に響いた。
結局、彼女たちの自由研究は中途半端に終わった。あの鬼の正体も不明のままだ。
総評コメント
12月のお題は「鬼に纏わる怖い話」。今年の大ヒット作品「鬼滅の刃」にあやかってのお題でしたが、昔話に登場するような角の生えたオーソドックスな鬼から、食人鬼に殺人鬼、もう少しマイルドに仕事の鬼、鬼嫁など、精神的な意味での鬼話まで多種多様に集まりました。
ちょっと面白かったのは、「~さんは一度だけ~したことがある」「一度だけ~ことがあった」というような書き出しの作品が五十作近くあったことです。それが悪いというのではなく、単なる統計なのですが、鬼や怪異との遭遇はそれだけ稀であり、何か例外的ないつもとは違った状況でおかしなことが起こるということの証明ではないかと思います。
最恐賞は「百鬼夜行を描く。」音隣宗二。少女たちが百鬼夜行の巻物の中に見た幻の鬼と、錯乱のひと時を綴った作品で、まさに鬼気せまる何かを感じさせる話でした。
佳作は、「雪の日」芳春、「鬼石」soo、「笑い家族」成瀬川鳴神の3作を選出。「雪の日」は鬼にゆかりある神社から出てきた角隠しに綿帽子の花嫁の目撃譚、「鬼石」は魔を祓う角のような突起がついた石の不思議譚、「笑い家族」は鬼を鎮める儀式を行う一族に起きた変事と、怖さもさることながらたいへん珍しい話が集まりました。
今月は、そのほかに優秀作として「鬼が嗤う」影絵草子、「色鬼の思い出」緒音百の2作を選出、以上5作品を3月発売予定の鬼アンソロジー「実話奇譚 鬼怪談」(仮題)に収録させていただきます(受賞者の皆様には後日、印税のお知らせ等ご連絡いたします)。
今回、審査で難しかったのは果たしてそれは「鬼」なのかという話が多かったこと。怪談として恐怖度も高く、面白い作品なのですが、妖怪、幽霊の類と区別がつかないものもあり、基準に迷いました。例えば、人を喰う化け物が出るという話でも、土地の人がそれを「鬼」と呼んでいる、古くから「鬼」と言い伝えられている等の補足がないと、鬼の話としてよいかはっきりしなくなります。またある意味ファンタジックなテーマゆえ、明らかに実話ではないと判断できる部分がある投稿作も多く、その点が少し残念でした。来年もマンスリーコンテストは続きますが、実話怪談のコンテストであることをご理解いただき、地味でも構いませんので、この現実・日常に科学や理屈では割り切れない不思議なこと、恐ろしいことがあるのだというロマンを真っすぐに届けていただけることを願っております。
怪の光景や異形のもの(今月でしたら鬼)を描写する時ですが、全体から細部へというのはほとんどの方が自然とそう書いているように思います。一つ一つの特徴の順番としては、遭遇した体験者が最初に目に飛び込んできたもの、もっとも印象深かった特徴から順に表現していく場合と、周辺から固めて最後に「何よりも異様だったのは~だ」といった表現で強調する場合と二通りあると思います。前者は一瞬の記憶やスピード感、後者は恐怖に固まりつつ観察している状況が浮かびます。また視覚情報より嗅覚や聴覚が先に来る場合もあるでしょう。一概にどれが正解というのはありませんが、一つ一つの表現には導線を作ったほうが伝わります。視覚情報で言えば、舐めるように視線が動いていくイメージで描写していったほうが、視線があちこち飛ぶような表現より頭の中に絵を浮かべやすいということです。何をいちばん伝えたいかよく整理して描写していくと良いと思います。
さて、来月。令和3年最初のお題は「家電」に纏わる怖い話。冷蔵庫、洗濯機、炬燵、電子レンジ、エアコン、パソコン、プリンター、ありとあらゆる機器が家庭で大活躍していますが、そこに妙なものが棲みついていたり、負の思念が残留していたりする場合もあるのでは……? 曰く付きの家電、不気味な家電怪談、お待ちしております。
そして来月はお年玉企画として、最恐賞のAmazonギフトは5,000円、佳作の文庫プレゼントは3冊セットになりますので、ふるってご応募ください!
さらに気になる結果発表を弊社公式のYouTube怪談朗読チャンネル「井戸端怪談」にて行います。「りっきぃの夜話」でお馴染みの人気怪談朗読YouTuber・りっきぃさんの朗読で、佳作作品から順にカウントダウン形式で発表する試み。タイトル発表だけでなく、実際に作品を朗読していきますので、りっきぃさんに作品を読んでほしい方はぜひチャレンジしてみてください。最後に読まれる作品=最恐賞は誰の作品か!? どうぞお楽しみに!
⭐竹書房公式YouTube怪談朗読チャンネル「井戸端怪談」
こちらのチャンネル登録もぜひよろしくお願いいたします!
⭐最終選考通過作品
「折り紙」影絵草子
「なんかリアル」中野前後
「鬼が嗤う」影絵草子
「鬼剣舞」真合流
「影」あんのくるみ
「雪の日」芳春
「面」綿帽子
「笑い家族」成瀬川鳴神
「百鬼夜行を描く。」音隣宗二
「戻橋」ふうらい牡丹
「鬼石」soo
「色鬼の思い出」緒音百
⭐二次選考通過作品
「折り紙」影絵草子
「なんかリアル」中野前後
「鬼が嗤う」影絵草子
「鬼剣舞」真合流
「影」あんのくるみ
「九官鳥」ゆう
「百鬼の柄」芳春
「雪の日」芳春
「鬼の道案内」月の砂漠
「面」綿帽子
「笑い家族」成瀬川鳴神
「効果的面」菊池菊千代
「百鬼夜行を描く。」音隣宗二
「戻橋」ふうらい牡丹
「能楽囃子」ふうらい牡丹
「あげる」緒音百
「呼ばれた鬼」天堂朱雀
「井戸が鬼」高倉樹
「鬼石」soo
「グランパの話」間宮幹
「色鬼の思い出」緒音百
(※投稿日順)
現在募集中のコンテスト
【第77回・募集概要】
お題:忘れ物に纏わる怖い話
締切 | 2024年11月30日24時 | |
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結果発表 | 2024年12月16日 | |
最恐賞 | 1名 Amazonギフト3000円&文庫収録のチャンス |
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優秀賞 | 3名 竹書房怪談文庫新刊3冊セット |
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応募方法 | 下記「応募フォーム」にて受け付けます。 フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム | お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp |