マンスリーコンテスト 2024年4月結果発表

怪談マンスリーコンテスト

ー 怪談最恐戦投稿部門 ー

2024年4月結果発表

最恐賞
「ドンジンボク」月の砂漠
佳作
「優しい祖父母」千稀
「草人形」中村朔
「大銀杏」ホームタウン

最恐賞「ドンジンボク」月の砂漠

田中さんは小学校四年生の時、ミツル君という同級生と仲良くなった。いまから二十年ほど昔、静岡県にある温泉で有名な町でのことだ。
二人は放課後、町の散策をよくした。ミツル君は樹木の名前にとても詳しい子だったという。
「ほら、田中君。あれはクスノキ、あれはプラタナス、あの低いのはシラカシって言うんだよ」
指を差しながら得意げに教えてくれたそうだ。
ある時、田中さんはミツル君から、奇妙な話を聞かされた。
「この町のどこかにドンジンボクがいるんだ」
それは何だと首を傾げる田中さんに、
「人間を飲み込む木の妖怪だよ。特に、子どもの目玉が大好物なんだぞ」
ミツル君は目を輝かせながらそう答えた。亡くなった祖父に聞いた話だから真実さと、熱く語っていたという。

次の日から、二人のドンジンボク探しが始まった。田中さんは半信半疑だったが、謎の妖怪探しはRPGゲームのようで楽しかった。
夏休みに入ると、二人は町外れの古池を訪れた。そこは立入禁止エリアで、以前からミツル君が「あそこがドンジンボクの住処では?」と疑っていた場所だった。
フェンスを乗り越え侵入すると、二人は古池をグルリと囲むように生い茂っている木々を一本一本、慎重に調べていった。
数十分ほど、熱中して木々を見て回った頃だ。
ふと気が付くと、ミツル君がいない。
「おーい、ミツルー?」
呼び掛けたが返事はない。周囲を見回したが、姿は見えない。
「おーい、ミツルーーー!」
ミツル君が池に落ちてしまったのではと心配になり、田中さんは水辺に近寄った。
次の瞬間、むせかえるような青臭い匂いと、腐った生魚の匂いが、同時に背後から漂ってきた。
匂いの方向を振り返ると、一本の太い木があった。
その木の幹の真ん中に、ピンポン玉に似た白いものが二つ、埋まっている。何だろうと思い、田中さんは顔を近付ける。
それは、血走った目玉だった。
田中さんはパニックになり、気が付いた時には、その場から走って逃げ出していたという。
結局、ミツル君はその夜、家に帰って来なかった。
通報を受けた警察が、翌日、古池を捜索すると、ミツル君の水死体が発見された。

「ミツルは古池に落ちて溺れ死んだと診断されました。でも……」
田中さんは今でも、ミツル君はドンジンボクに飲み込まれたあと、古池に吐き捨てられたのではないかと疑っている。
「だって、ミツルの遺体は……」
両方の目玉がなくなっていたという。

総評コメント

今回のお題は「草木」。なかなかに広いテーマですが、いちばん狭義にストレートにイメージを追うとすれば、野草や樹木ではないでしょうか。枠を広げていくと花、野菜、果物といった植物全般、海草(海藻)など藻類、テーマの「木」に関連するところでキノコなどの菌類もお題に含めることはできると思いますが、よりストレートに「草」あるいは「木」を感じるものを最終的に選ばせていただきました。
最恐賞は木の妖怪の話「トンジンボク」(月の砂漠)。人を食う大樹や、神木に人間の生贄を捧げる話は、怪談やホラーで時折出てくるもので、ネタとして物珍しいわけではありませんが、怪談本来の素朴な怖さがあり、「物語」になりがちな話を聞き書き怪談としてうまく纏めていると思います。千字という尺に余韻を含めて無理なくはまっている完成度の高さと読みやすく整った文章も高く評価した点です。
佳作1作目、「優しい祖父母」(千稀)は、流れを覆してドキリとさせる台詞が印象的であったことがいちばんの評価点で、文章の流れも良かったと思います。ただ、体験者の安里さんの性別が読み取れなかったので、映像として思い浮かべると若干の迷いが生じます。2作目「草人形」(中村朔)は何とも不気味でネタとしての新鮮度が高い作品。ラストにヒトコワ(狂気性、異常性)を感じるところも良かったですが、怪異を作り出す叔母の意図が不明なところと、両親のあっさりした行動が不可解で若干の消化不良でしょうか。もっとも分からないものは分からないのが当たり前で、そこに余計な考察を入れることは逆に蛇足となる可能性は高いです。それをどう処理するかはすべての実話系作品の課題であると思います。例えば読者が疑問に思うだろうことを、体験者(登場人物)も同じようにおかしい、変だ、でもわからないと感じていれば、そこに共感が生まれ、ひとつのカタルシスには繋がります。逆に体験者や聞き手(筆者)があっさりと不明であることを受け入れてしまうと、読者の感じるもやもやが強くなる傾向があると思います。なんだかよく分からないけれど、とにかく怖かったなという満足感を与えることができれば、その作品は成功です。3作目、「大銀杏」(ホームタウン)は構成が良く、母の忠告という伏線を綺麗に回収しつつ、全部が全部つまびらかになったわけではない不安感が最後に残る点が良かったと思います。
その他、二次選考以上の作品は話のネタとしてレベルが高くが多く、大変面白かったです。その点では受賞作品とは甲乙つけがたいのですが、ネタが大きすぎて如何せん1000字という皿には収まりきらない、無理に盛り付けたがために見た目の美しさや食べやすさ(読みやすさ)がどうしても損なわれてしまうという作品もございました。とても勿体ないので、ぜひいつか適した尺で読みたいところです。最初に述べましたようにモチーフが今回のテーマの中心にはないものの、話としては非常に面白いというものもたくさんございました。そして、初投稿の方も多い回でした。最初はなかなか一次選考に通過しないと悲観的に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、こんな不思議な怖い話があるから聞いてほしいという純粋な気持ちを持ちつつ、それを如何にわかりやすくリアルに伝えるか試行錯誤していくうちに、怪談のセオリー的なものも見えてくると思います。セオリーを理解した上で逸脱するのも面白いのですが、最初はオーソドックスに他者の体験談であれば、なるべく主観を排除し、聞き書き調にあったることを記すのがおすすめです。ですます調よりも、た・である調のほうが客観性を保ちやすいでしょう。最恐賞作品は毎月公開させていただいておりますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
5月のお題「数字に纏わる怖い話」の結果発表は6月15日。20時~放送のラジオ「井澤詩織の怪談喫茶」(文化放送・超!A&G+)にて最恐賞を発表&朗読いたしますのでお楽しみに。そして次回6月のお題は「猫」。こちらもご応募楽しみにお待ちしております!

●最終選考対象7作
「キヨさん」大谷雪菜
「松の木の下で」キアヌ·リョージ
「枇杷」沫
「大銀杏」ホームタウン
「優しい祖父母」千稀
「草人形」中村朔
「ドンジンボク」月の砂漠

●二次選考通過12作
「キヨさん」大谷雪菜
「雑草のママ」大和かたる
「松の木の下で」キアヌ·リョージ
「ススキさん家の幽霊」おがぴー
「枇杷」沫
「恩返し」天堂朱雀
「大銀杏」ホームタウン
「桜の下に埋まる」筆者
「優しい祖父母」千稀
「草人形」中村朔
「首吊りの木」月の砂漠
「ドンジンボク」月の砂漠

●一次選考通過25作
「老人の木」雨水秀水
「キヨさん」大谷雪菜
「雑草のママ」大和かたる
「松の木の下で」キアヌ·リョージ
「ススキさん家の幽霊」おがぴー
「枇杷」沫
「恩返し」天堂朱雀
「桑の実」市川龍拙
「供えられた花」鬼志仁
「大銀杏」ホームタウン
「桜の下に埋まる」筆者
「優しい祖父母」千稀
「そんなわけない」千稀
「草人形」中村朔
「受胎」影絵草子
「ジョラ、ジュジュス」犬飼亀戸
「翁の面」夕暮怪雨
「首吊りの木」月の砂漠
「ドンジンボク」月の砂漠
「ご神木」月の砂漠
「弟の耳」影絵草子
「ダンデライオンの大恩返し」緒方さそり
「雑草袋」雨森れに
「プロの勘」碧絃
「椋鳥とプラタナス」唎酒師のカズ

現在募集中のコンテスト

【第76回・募集概要】
お題:運動会・体育祭に纏わる怖い話

締切 2024年10月31日24時
結果発表 2024年11月15日
最恐賞 1名
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優秀賞 3名
竹書房怪談文庫新刊3冊セット
応募方法 下記「応募フォーム」にて受け付けます。
フォーム内の項目「件名(作品タイトル)」「投稿内容(本文1,000字以内)」「メールアドレス」「本名」「ペンネーム」をご記入の上ご応募ください。※創作不可。作品中の地の文における一人称は投稿者ご本人と一致させてください。 応募フォーム

お問い合わせ kowabana@takeshobo.co.jp